「時間切れ」を狙う財務省
子育て支援法などは成立

 政界では、首相が頃合いを見て判断すれば増税は先送りできる、という観測が多いが、官僚の世界では違う。「増税延期は首相が突然、決められる案件ではない」という。

 解散は首相が国会で宣言すれば即座に決まるが、消費税増税は法律で決まっている。先送りするには「法改正」が必要だ。

 世論は増税に抵抗があるが、あからさまな選挙目当ての「先送り」では国会が紛糾する。強行採決ともなれば自民党の印象は悪くなるばかりだ。

 そんな中で「消費税先送り解散」ができるのかというわけだ。

 首相の取り巻きの「焦り」の裏には、「期間切れ」に持ち込もうという財務省のしたたかな戦略がじわじわと、成果を上げていることがある。

 財務省は増税を柱とする2019年度予算をすでに国会で通した。増税財源で景気対策を盛り込んだ101兆円の大型予算である。増税が先送りされれば、財政の骨格にひびが入る。

 増税を財源に幼児保育の無償化などを盛り込んだ子育て支援法などの法律も、連休明けに成立させ、増税が後戻りできない地固めを進めている。

「行政の手順を考えれば、いまになって政府方針を180度変えるのは無理ですよ」。財務官僚は声をひそめて言う。

 元財務官僚で、国際通貨基金(IMF)の古沢満宏・副専務理事は朝日新聞のインタビューで、10月の増税が再び延期されれば、「日本の政策決定についての信用が失われるリスクがある」と述べた(4月25日)。

 財政の健全化は、国際的な約束でもあり、政府は着実に取り組むべき課題だと指摘した。

 ここまでやってきたのを、首相が突然ひっくり返したら先進国の笑いものになる、というわけだ。

 首相が「増税先送り」を成功させるには、「リーマンショック級の危機」ほどではなくても経済の悪化を国民に納得させる環境づくりが欠かせない。

 前回、2017年の先送りでは、前年8月の伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)で「リーマンショック級の危機が到来する恐れ」を指摘する文書を日本が提示。各国首脳の同意は得られなかったが、この文書を「増税先送り」の根拠にして、12月に衆院を解散し、翌年の国会で増税延期の改正法案を通した。

 この時は先送りのお膳立ては1年2ヵ月前から始まっていた。
 だが、今回は、実施が決まっている10月まで5ヵ月足らずだ。