早くから有機ELに投資を始めた韓国企業が、有機ELに熱を上げるのはまだわかる。しかし、中小型有機ELパネルに強いサムスン電子に対して、大型テレビ向け有機ELパネルが得意なのは、同じ韓国企業でもサムスンのライバルのLG電子である。こうした状況で、サムスン電子はテレビ事業に関しては戦略的に有機ELに力を入れていない。
当然のことである。経営学者のマイケル・ポーターを持ち出すまでもなく、相手企業が有利な市場で戦うのは避けるべきである。サムスンほどの体力のある企業でも、自社に不利と思えば戦略的に既存技術に留まることがあるのだ。
一方のJDIはどうだったであろうか。2015年頃から実用化が進んでいた同社のフルアクティブ技術を用いた液晶パネルは、フレキシブルな形状の実現や狭額縁など、有機ELが得意としていた特徴を液晶でも実現していた。その頃から大胆かつ迅速にフルアクティブ技術の量産に向けた開発投資、生産設備投資を行っていたら、その後の状況は大きく違っていたのではないだろうか。
ちなみに、現行のアップルのiPhoneの3モデルのうち2モデルは有機ELパネルだが、1モデルはJDIのフルアクティブパネルである。見る人が見れば違いはわかる。だが、多くの人はその差を感じないだろう。80%の完成度でも多くのユーザーは気にしないのだ。
日本の経営者に求められる
要らないものを捨てる力
常に新技術に取り組むというのは必ずしも正しくなく、新技術開発の必要性はそれがより大きな収益を期待できるときに限られるべきである。また、日本は製品そのものの技術開発は得意だし、好んで行うものの、既存技術の生産工程技術を磨き上げるという地味な革新は軽視されがちである。
JDIの失敗は、液晶パネルの現場を知らない「偉い人」が、より新しくキャッチーな技術に目移りした結果でもある。日本の経営者に求められるのは、「ジオングの脚」を切り捨てられる大胆な意思決定者であろう。