JDIの内外にいたはずの
ジオングに脚をつけたがる人々

 JDIの場合、ジオングに脚をつけたがる「偉い人」は必ずしも企業内部の関係者だけではなかった。JDIに出資をしていた産業革新機構(その後のINCJ)にしろ、INCJの上にいる経済産業省にしろ、現場を知らない「偉い人」だったかもしれない。JDIの有機ELへの投資については、大臣会見でも度々出てきた話だ。

 JDIはJDIだけで経営の意思決定ができる事業者ではなく、INCJや政府も発言力のあるステークホルダーとして経営方針に関わってきた。それが前述の「JDIの経営者だけの責任ではない」という話だ。

 本間氏は本来、JDIを含む日本の液晶産業の再々編をミッションとしていたといわれるし(シャープの鴻海傘下入りで頓挫したが)、東入来氏も有機ELシフトをミッションとしてJDIの経営者になった。そこには、INCJや経済産業省の意向が働いていただろう。しかし、それはJDIという会社の現場の環境や資源を正しく理解した戦略とはいえなかったかもしれない。「新しい技術が突破口になる」という、安易な期待でしかなかったのではなかろうか。

 JDIは母体こそ東芝・ソニー・日立の液晶開発チームという既存の巨大企業の事業部門だったが、JDI発足によって既存事業から切り離され、小ぶりながらも自分たちのビジネスだけに集中できるスタートアップ企業として生まれ変われたはずであった。しかし、通常のスタートアップと異なるのは、投入された資金の源泉が税金であったということだ。それが、スタートアップ企業として思い切った経営判断をすることができなかった要因である。

 もちろん、税金の使途を「好き勝手に使っていい」と言える役所などあるはずがない。経済産業省もINCJも、自らの仕事を果たしただけである。しかし「正当な業務」としてのJDIへの関与が、結果としてJDIのスタートアップ企業としての優位性を損なわせたともいえる。

 これを機に、経済産業省もINCJも、新しい技術開発だけが価値創造ではなく、80%の完成度の技術でも市場を支配できる戦略を構築するために、経営能力の総動員が必要であるということを理解してもらいたい。そして公的資金を使いながら、事業の独立性を高めてリスクを取ることを厭わない、スピーディで大胆な経営意思決定を行えるスキーム構築を考えてもらいたい。

(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 長内 厚)