子育て中の親の悩みが幸せに変わる「29の言葉」を紹介した新刊『子どもが幸せになることば』が、発売直後に連続重版が決まり、大きな注目を集めています。著者であり、4人の子を持つ田中茂樹氏は、20年、5000回以上の面接を通して子育ての悩みに寄り添い続けた医師・臨床心理士。

本記事では、「子どもの進路に親はどのように関わるか」という、最もポピュラーな親の悩みについて、4つの実例を交えながら、著者の考え方をお伝えします。(構成:編集部/今野良介)

進路に悩み、しんどくなってしまった4人の子ども

私は教育の専門家ではありませんので、「どうやって勉強したらいい成績が取れるか」というようなことは書けません。ここで書くのは、「子どもにとっての勉強というものを親はどう考えるべきなのか」ということです。

カウンセリングでしばしば出会うのは、親が勉強や成績にこだわりすぎて、より大切なことが見えなくなっているケースです。「どうしたらいい成績が取れるか」と、子どもが悩んでいるのなら、悪くないでしょう。しかし、親がその方法を知りたがっているというのは、問題があると思います。

当然ですが、勉強するのも、難関といわれる学校に進学するのも、働くことだってそうですが、みな、幸せな人生を送るためでしょう。幸せになるという目的に対して、勉強することは、手段の1つにすぎないはずです。しかし、よく言われるように、手段と目的が取り違えられて、こと勉強に関しては、混乱しているケースにしばしば出会います。

以下に紹介するのはすべて、ある同じ日のカウンセリングであったことです。

 

ケース[1] 難関校を目指す中学生

その日の最初のケースは、中学生の親でした。

その男の子は、小学生まではクラスで1、2番の成績だったそうです。でも、中学になって、少しずつ成績が下がってきていました。そのことに親がこだわりすぎて、家庭の中は険悪なムードになってきていました。下がってきたと言っても、上位には変わりないのです。友達も多いようだし、クラブ活動にも熱心に取り組んで、子どもは楽しくすごせているようでした。

しかし、親は最難関の1つである高校への進学を望んでいて、もっと勉強しないとこのままでは合格できないと、そればかり心配していました。成績のことでしつこく干渉して、子どもが深夜に家を出てしまったり、近所の人が警察を呼ぶような親子ゲンカも、何度か起こしていました。

その高校に進学できたとしても、勉強の競争はますますしんどくなり、もっと厳しくなることをどう考えているのかと、私は親に尋ねてみました。

不思議なことに、その点は、まったく気にならないようでした。「とにかくなんとかその高校に入りさえすればいい。そうすれば子どもは将来必ず幸せになる」と、親は思い込んでいるようでした。

そして、まさにその部分に対して、子どもは怒りをもっていると感じました。

ケース[2] 不登校気味の難関校の高校生

次のケースは、ちょうど、その難関高校の2年生の親でした。

子どもが夏休み明けから朝起きられなくなり、休むことが増えてきました。病院で検査をしたが、「身体的には問題がない、疲れているようだ」と言われたとのことでした。2学期末は、ほとんどの科目で試験を受けられなかったのですが、親は学校に何度も掛け合って、追試に合格して、3学期にしっかり通学できれば、留年しなくてもいいという配慮をしてもらいました。実際にはますます登校が困難になってきているので、追試をクリアしても3学期に通学できるとは思えませんでした。

それでも親は「留年さえ避けられれば」と、そこばかりにこだわっていました。たとえ3年に進級できても、その先のしんどさ、まして大学受験などは、いまのままでは到底無理なことが明らかなのですが、そこを尋ねても、反応はありませんでした。

このケースでは、子どもの不登校は、子どもが(無意識も含めて)選択している大事な「方向転換」や「自分を見つめ直すこと」によると考えられました。しかし、親のほうは、そのような「現実」に向き合うことを避け、目の前の問題、つまり「子どもが起きられないことや子どもの不登校さえなくすことができれば、すべては解決する」と思い込もうとしているようでした。

子どもにしてみれば、自分の人生の大きな問題に取り組む作業が始まろうとしているときに、混乱し動揺する親のことまで気を配らないといけないのは、本当にしんどいことだろうと、私には感じられました。

ケース[3] 留年した医学部の大学生

その日は、それに続いて、大学生の親、社会人の親の面接がありました。

大学生のケースは、医学部に現役で進学した男の子の親でした。3年生までは順調にきたものの、4年生で臨床実習の前にクリアしなければいけないテストに合格できなかったそうです。留年が決まった子どもに、親としてどう接していけばいいのか、という相談でした。

ずっと優等生でやってきたその子は、勉強すれば、その試験もクリアできると自信はあったようです。
でも、たとえそれをクリアできても、「その先に自分は何を目的にしてやっていけばいいのかがわからなくなった」と親に話したそうです。「しなければいけないことはわかるけれど、何をしたいのかがわからない」と、その子が必死で親に訴えたと聞いて、その切実な言葉に、私は胸を打たれました。

しかし、親は「あと2年で卒業できるのに、そうすれば医師になれるのに」と、その点ばかりを気にされていました。医師になれたら、他の問題なんてなんでもないという感じで話すのが、印象的でした。

子どもが心配しているのは、「たとえ医師になれたとしても自分が何をしたいのかは見つからないかもしれない」そして「それが見つからないと、この先このままで生きていくのはしんどそうだ」ということだと思われます。このケースでは、子どもが自分の悩みを親に話せたこと、この段階で自分と向き合う時間をとれたことは、子どもにとってよいことだと、話を聞きながら感じました。

ケース[4] 仕事が辛くなった新人医師

さて、この日の最後、社会人の親からの相談です。若い医師の親でした。

初期研修を終えて、いよいよ医師らしい仕事が始まったのですが、患者さんや家族からきつい言葉をかけられたり、職場での人間関係がしんどかったりで、親に弱音を吐いているとのことでした。だんだんと仕事に行くことがつらくなってきているようで、朝に車で家を出るのですが、職場が近づくと違う方向に道を曲がってしまい、家に帰ってきてしまうことが何度もあったそうです。

いまは、母親が車で職場まで送っていき、帰りも迎えに行っている状況とのことでした。うつ病かもしれないし、病院にかかるようにと両親もすすめていますが、子どもは「それは絶対に嫌だ」と拒否している、とのことでした。

大人になっても、しんどくなることはありますよね。

 

さて、これらのケースをまとめてご覧になって、どう思われたでしょうか?