積極的診断によって腰痛の正体に見当がついた後は「治療的診断」。どのような治療に対して改善が見られたか、あるいは見られなかったかを通して、診断を絞り込む。

ケガの治療より
痛みの治療が先

 治療において加茂院長は、「一刻も早く、痛みを取り除くこと」を優先している。

「痛みは火災と似ています。初期消火(急性痛)なら、バケツ1杯の水で消せますが、火の手が大きくなると、簡単には消せなくなる(慢性化)。急性痛と慢性痛症とでは痛みのメカニズムが違うので、治療者はそれを見極め、それぞれに合った治療法を用いるべきです。

 急性痛のときには当然、まず痛みを消してしまうことが重要です。そうしないと、いろいろな不都合が生じます」

『不都合』には次の3つがあるという。

 (1)ワインドアップ現象――持続的に痛みの刺激が脊髄に入ると、次第に脊髄の興奮性が増強される。
 (2)中枢性感作――痛みがつづくと、脊髄における知覚処理に変化が起こり、もとからある炎症、あるいは組織障害部位の範囲を超えて痛覚過敏の部位が広がる。
 (3)痛みの可塑性(かそせい)―ー痛みがつづくと、痛みの神経回路に歪みが生じ、もとの正常な状態に戻らなくなる。

 これらの不都合が重なることで急性痛は慢性痛症に変化し、患者は、急性痛の原因となった外傷などが治った後も、消えない痛みに苦しめられることになる。消火開始の遅れによって、燃え広がった火が、延々とくすぶり続けてしまうのだ。

「だからこそ、治療にあたる医師は、痛みを長引かせないよう、できるだけ早く局所麻酔なり消炎鎮痛剤なりを用いて、痛みの消火活動にあたるべきです。ところが、多くの医師は、痛みの原因を探ることにばかり熱心で、痛みを止めることにはあまり関心がありません。患者さん自身も、痛みを止めることは真の治療とは思っていないふしがあります。しかしそれは、大きな誤解です。特に慢性痛の治療では、痛みをとることこそが、治療そのものなのです」

 さらに意外なことに、ケガや疾病に対する切開手術でも、「体」が痛みを感じないよう、局所麻酔をしたほうがいいらしい。