誠実かつ長く事業を
継続している会社の「強み」

 売上減少の要因は、固定顧客ではなく、スポット的な取引しかない顧客の減少でした。その減少を補うため、採算を度外視した単価で新規顧客からの受注をしたために赤字に陥っていることがわかりました。
 この会社は、営業さえ適切に展開できれば自力再生すら可能なのではないか。そんな思いもよぎるほど、優良顧客に恵まれていたのです。

 なぜ、固定客との取引では高い利益率を維持できるのでしょうか。

 それには、この強みの本質を理解する必要があります。社長は「長年の信頼」と言いますが、信頼関係を持続し続けるだけの理由があるはずです。営業から製造部門までつぶさにヒアリングを重ねていくなかで、こんな話が出てきました。

 高級マンション販売業者の販促物や高級商品の販売カタログ、美術品の写真集等は、顧客は色や質感に非常に神経質になります。本物と異なってしまうと、即刻クレームにつながってしまうようなデリケートな印刷物なのです。

 この会社では、撮影に最高水準の機材を使用、自社の撮影スタジオには細心の配慮がなされています。DTPでは困難な特殊な製版技術を各スタッフに伝承できていることから、顧客は安心して発注を継続していることがわかりました。
 というより、毎年同じような商品や製作物を印刷するので、前回と微妙に違ってしまうことを嫌がるため、他社に乗り換える障壁が高くなっていたのです。

 顧客第一と言いますが、中小企業が顧客への品質のために、高額な設備投資を継続するのは並大抵のことではありません。その姿勢を持ち続ける社長の誠実な人柄もあって、主要顧客はよほどのことがない限り維持されると判断できました。