「将来性がない」けれども売れた

 売上は年々減少、市場も先細りで将来性はない。経営者自らがそう思い込んでいた会社が、思わぬ高い値段で売却に成功することもあります。

 12の例の1.売上が減少。市場が先細りで「将来性がない」の実例をご紹介します。

 この会社の直近の売上は5億円。毎年の漸減傾向に歯止めがかからず、薄氷を踏む思いでなんとか黒字に持ち込んでいた利益も悪化の一途をたどり、2016年度にはついに赤字に転落します。

 機械等の設備投資で銀行借入は4億円にまで膨らみますが、内部留保は非常に薄く、純資産はわずか3000万円しかありません。古くから保有する大きな含み益のある本社の土地だけではもはや担保が間に合わず、オーナー社長が自宅を追加担保として提供することで、なんとか銀行の信用を維持している状態です。

 今後、収益状況が大幅に改善しない限り、早晩、返済に行き詰まることは明らかです。銀行からは、事業承継を含めた会社の再建策を提示しない限り、運転資金の再融資には応じられないと突き放されてしまいました。

 銀行の納得する再建策とは、どうやら事業を大幅に縮小したうえで本社を移転し、現在の本社の土地を売却して借入金を大幅に削減するという案のようです。これに合わせる形で、取締役の息子に経営を承継するということであれば、必要な運転資金は融資するというのです。

 表面的にはもっともな再建策ですが、事業を大幅に縮小することが可能かどうか、残した事業は継続性があるのかどうか、肝心要の部分が不透明です。おそらく銀行はそこまで踏み込んでいるとは思えず、実態は体のいい債権回収にも見えます。