山口 この図は印象的ですよね。佐宗さんはこれを一気にバッと描いたんですか? それとも、人と話したことなどを咀嚼しながら、少しずつ進化させていったのか……。

佐宗 「『見えないものを見る力』を身につける」というのが本書の最初のコンセプトでした。「ビジョナリー」と言われる人材というのは、要するに「他人に見えていないものが見えている人」だと思っていたんです。

佐宗邦威(さそう・くにたけ)
BIOTOPE代表。戦略デザイナー。京都造形芸術大学創造学習センター客員教授
大学院大学至善館准教授東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科修了。P&G、ソニーなどを経て、共創型イノベーションファーム・BIOTOPEを起業。著書にベストセラーとなった『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』(ダイヤモンド社)など。

山口 「他人に見えていないもの」というのは、本書で言うところの「ビジョン」ですね。

佐宗 そのとおりです。これらのキーワードがつながる前、ちょうどこの本の原稿を書いているころにたまたまハマっていたのが、スタジオジブリの宮崎駿監督のつくり手としての生き様でした。彼が以前に書いた企画書などを読みながら、世界観を「企画書」というフォーマットに落とし込むときに、彼がどんなことをやってきたのかを掘り下げていたんです。これがすごく刺激になりました。

『となりのトトロ』の企画書では、サツキとメイのキャラクターについて、「サツキは都会生活と田舎生活を知っていて、その間で悩む子であるべきだ」「メイは純粋な子であるべきだ」というように、宮崎駿さんは「こういう世界であるべきだ」ということを凛とした文章で徹底的に書いています。それを読むなかで、「ビジョナリーとは、2つのパラレルワールドを行き来する人なんだ!」というところへとつながっていったんです。

山口 「パラレルワールドを行き来する人」というのがブレークスルーのポイントだったんですね。

佐宗 当初はそこまではっきりと言語化できていなかったかもしれません。でも、中目黒のカフェで、全体の構成を見直したりしているなかで、ああいう世界の絵がふと浮かんできて、1時間くらいでひたすらスケッチしました。

その絵を描きながら、「ああ、自分は『パラレルワールドを行き来できるようになる方法』について伝えようとしているんだ!」とわかったんです。

「落ちる経験」こそが妄想力を発現させる

山口 佐宗さんはそのパラレルワールドを「地上」と「地下」というふうにイラストで表現されていますよね。それにはどんな意図があったのでしょうか?

佐宗 実際、自分の世界を切り開いている人、いわゆるビジョナリーというのは、見えない世界=「妄想」を、実世界に重ねて生きているのだと思います。そこにないはずの世界をあたかも見ているように生きる。そういう人は、大人になっても想像力が豊かで、性格もどこか子どもっぽかったりする。

でも、最初からそうだったわけではありません。話を聞いてみると、そういう人は必ず一度は「地下世界」に落ちています。「ああ、この人は輝いて見えるな……」という人は、だいたい過去に「落ちた経験」のある人なんです。そういう意味で、「落ちる」のは必ずしも悪いことではありません。そこに触れずにビジョナリーについて語るのは嘘だろう、とずっと思っていたので、こういう表現になったんだと思いますね。