山口 また、「ビジョン」という言葉に対しては、一般的には「構想」という言葉が使われたりしていますよね。でも、「構想」だと手垢がつきすぎている。そんななか、佐宗さんは「ビジョン」の言い換え表現として、「妄想」という言葉を選ばれたのがじつに見事だなと思いました。
佐宗 ありがとうございます。人には必ず「本当の自分はこうじゃない」と思うタイミングがあると思うんですが、そういう現実に対する違和感を自覚させてくれるのが、内側から湧き上がってくる根拠のない「妄想」なんじゃないかと思うんです。
「根拠がないことはダメ」という教育を、僕たちは受けてきました。受験で「正しい答えを出すこと」を徹底的に学ばされ、社会に出たら会社で訓練され、傭兵か家畜みたいになっていく。「妄想」っていうのは、そういうところから「はみ出す」ためのきっかけになってくれるんです。
このメッセージには共感してくれる人がすごく多かったですね。論理とか戦略とかに対して、違和感や苦手意識をもっている人というのは、相当数いるのだと思います。そういう人たちにとっては、「それでいいんだよ」という背中を押すメッセージになったのではないかなと。
「出世はしないが面白い人」が
組織には欠かせない
山口 一方で、「パラレルワールドをもっている人」って、ちょっと危ないですよね。かく言う私も、いまだに夢とリアルがごっちゃになることがよくありますが(笑)。
佐宗 そうですね。少なくとも会社の「ど真ん中」のところには、あまりそういう人っていないように思います。僕がいたソニーには、過去のイノベーターたちのインタビューを集めた門外不出の冊子があります。それを読んだとき、現実にないものをありありと頭に浮かべて楽しそうに働いている人たちが、ソニーにも相当数いることがわかりました。
しかし、そのような資質を持った人たちの多くは、言葉を選ばずに言えば、「組織の外側にいて出世しない人たち」です。でも、その出世しない人たちがこそが面白い(笑)。「組織の『端』のほうが面白い人たちがたくさんいる」という構図は、意外とどこの企業でも見られるのではないかと思います。
その頃から、いままでにないアイデアを聞いたときのリアクションを見ていると、2つのタイプに分けられることに気づきました。「根拠がないから無理ですよ」と言い切る人と、「でもそれって楽しいじゃん」という人――この「人種の違い」は何なんだろうと思いはじめました。後者の人たちに何人か出会ったとき、「こういう人が昔のソニーをつくってきたんだな」と感じました。面白いと思うことを徹底的に面白くやろうとする人たちの存在を、このとき初めて発見したんです。