従来も、「マッキントッシュ」や「ポールスチュアート」など各ブランドでオーダースーツの受注はしていた。1着10万円以上とはいえ、ブランドごとに見れば数%の売り上げしかなかった。このため、事業部でマーケティングの予算をつけられないと判断し、経営統括本部副本部長の慎正宗執行役員を中心に、経営直轄の新規ブランドとして、全社プロジェクトで立ち上げることになったという経緯がある。

 「うちは工場直営なので、中間業者がいらないため、他社より安く作れる」(慎氏)。東大発の3Dアルゴリズム開発会社であるSapeetと組み、三陽商会の持つスーツ作りにおけるしわやゆがみへの補正といった具体的な「接客」データを反映。「猫背係数」など独自のアルゴリズムが特徴だ。最短2週間で5万円台の商品を販売するといい、今後はその3D解析ツールを他のブランドにも水平展開していく狙いもある。

経費圧縮のために
「聖域」に踏み込めるか

三陽商会 岩田功社長
三陽商会の岩田功社長は通期の黒字予想を堅持するが… Photo by R.S.

 ただし、いずれもライバルの多い分野であり、出遅れ感も強い。ターゲット層である20代~30代女性向けのファッションゾーンは、市場は大きいが、ワールドの「UNTITLE」やオンワードホールディングスの「23区」、TSIホールディングスの「NATURAL BEAUTY BASIC」など、大手各社の主力商品がひしめくレッドオーシャンだ。またオーダースーツ市場は、ZOZOやオンワード樫山、AOKIなど大手は一通り参入済みだ。また、直営工場とはいえ、オーダーメードの手間暇を考えるとペイするまでには時間を要するだろう。

 そうなると、黒字化の頼みの綱は経費の圧縮だ。「デジタル化やマーケティング費用、人件費には手を付けない。秘策がある」と慎氏は話すが、大規模リストラを既に行っている上、短期間で数億円規模となると削れるものは限られる。

 真っ先にやり玉にあがるのは、不採算店舗の閉鎖だろう。業界関係者は、「本当に厳しいのは直営店。直営店を中心に、百貨店やショッピングモールに展開している赤字店舗に手を付けるのではないか」と漏らす。

 今期は決算期を12月から翌年2月へと変更したため、下期は19年7月から20年2月まで。三陽商会の主力商品であるコートなど冬物の売り上げが2カ月分積み増せるというボーナスもある。

 とはいえ、新規ブランドの展開やGINZA TIMELESS 8の立ち上げなどによる新店効果と同時に、不採算店舗の閉鎖で赤字の出血を止めるという合わせ技でもないと、上期の6億円の赤字から、業績予想である最終利益7億円の達成は困難だ。

 競合の施策に対して、後手に回ってきた三陽商会が、背水の陣で臨む“反転攻勢”。だが、上期で見せた下方修正の連発に、投資家は会社予想に対して不信感を持っている。再度の裏切りは許されない。