以後も、事故は繰り返されたのだが、それでも名大病院は信念を貫き通し、事故の公表や改善活動を進めた結果、2019年2月、国際的な医療施設評価認証機関であるJCI(Joint Commission International)認証を取得。真の意味で、患者中心の質の高い医療を提供している施設として評価されるに至った。

 JCIは、「医療の質」と「患者安全」を審査する世界で最も難度の高い認定機関で、現在、全世界で1067施設が認定されている(2019年7月現在)。ただし日本の大学病院では4施設のみ、国立大学病院では名大病院が初めての認定となった。

 実は日本中の病院では毎日、「ヒヤリハット」も含めて、一般市民の想像をはるかに超える数のインシデントが起きており、生命にかかわる重大アクシデントも頻発している。ただ、その多くは公開されず、時折報道される死亡事例は氷山の一角に過ぎない。

 こうした「人間がやることだから、ミスが起きるのは仕方がない」では済まされない医療現場の問題解決に、長尾先生は05年以来粘り強く挑みつづけてきた。

まるでサバイバルレース
医療界に抱いた違和感

「医療現場で、あたりまえのように受け継がれてきた常識や慣習に、違和感を持っていました」

 若き日の自分を、長尾先生はそう振り返る。

 1994年に群馬大学医学部を卒業するとき、志望していたのは「老年医療」だった。

「高齢化の波が押し寄せようとする時代でした。小児科があるなら老年科があってもいいなと。当時は東大や名大など、7大学に老年科があり、私は実家が東海地方にあったので、名大をめざすことにしました。土岐市立総合病院の院長が老年医療の専門家でしたので、研修させてもらってから名大へ行こう。老年医療をある程度修めたら、高齢者用の施設を作り、個別のニーズに合った診療を展開してはどうか、等の夢を描き、現場に入っていったのです」

 だが夢の実現は簡単ではなかった。

「全診療科を回って研修させてもらったのですが、周囲の先輩たちから諭されました。老年医療はどう展開するかわからない。外科や内科だって老年医療そのものだ。まずは医師として基本的な技術を身に付けないと、何をやるにしてもうまくいかないよと。ならば、自分には何科が向いているのだろうと悩むなかで、じっくりと話を聞いてくださったのが、尊敬していた呼吸器内科の先生でした。『老年医療はとても大切だ。それなら呼吸器内科でのトレーニングが生かせるはずだ。私と一緒にスキルを磨かないか』と誘われて呼吸器内科に入り、4年間修業しました」