名医やトップドクターと呼ばれる医師、ゴッドハンド(神の手)を持つといわれる医師、患者から厚い信頼を寄せられる医師、その道を究めようとする医師を、医療ジャーナリストの木原洋美が取材し、仕事ぶりや仕事哲学などを伝える。今回は第13回。創傷治療のエキスパートとして、ヤケド(熱傷)から口唇口蓋裂の治療まで、「キレイに治す」ことを追究してきた浜松労災病院院長の鈴木茂彦医師を紹介する。(医療ジャーナリスト 木原洋美)
「本当に助けるため」に
キレイに治すことまで考える
「生命さえ助かればいい。それ以上を望むのは贅沢(ぜいたく)だ」――。
医療現場ではしばしば、生命救助だけが目的と考えられ、QOL(生活の質)は後回しになりがちだ。
心臓病やがんの手術後のキズアト(傷痕)が醜くひきつれ、赤紫色に変色し、何年たっても耐え難い痛みやカユミに悩まされているケースは少なくない。帝王切開で出産した女性のおなかに残るキズアトもそうだ。「赤ちゃんとママが頑張った証し」などと美化され、治療の対象として顧みられることは少ないが、つらさをこらえている人は大勢いる。
こうした苦痛は、「生命さえ助かれば、我慢すべきこと」なのだろうか。
「いいえ、そんなことはありません。病気を治し、生命を助けることは最優先です。でも患者さんはその後何十年も、創傷と向き合って過ごさなければなりません。生命を救うだけでなく、手術創もキレイに治すのが、本当に大事だと思います。それによって、術後の痛みも治る速さも相当違ってきます」
そう断言するのは、浜松労災病院院長の鈴木茂彦先生だ。