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 2019年のアップルはサービス部門充実の年。3月25日のイベントでは、雑誌定額読み放題のNews+、ゲーム遊び放題のApple Arcade、独自コンテンツが楽しみなApple TV+といったコンテンツのサブスクリプションが発表されました。

 そんなサービス部門の中で異質だったのが、Apple Card。ゴールドマンサックスと組んでiPhoneのウォレットアプリから発行し、すぐにApple Payで使えるようになる、モバイル時代のクレジットカードとして発表されました。

 アップルは2019年第3四半期決算の電話会議で、夏とアナウンスしてきたApple Cardの米国展開を、8月中に開始すると明らかにしました(編註:米国時間8月6日、一部のiPhoneユーザーに招待状の送付を始めた模様です)。

 iOS 12の最新バージョンで、Walletアプリからカードを作ると、審査を経てすぐにiPhoneなどにカードが登録されて、店舗やウェブでのApple Pay決済が可能になり、のちにチタン製のカードが郵送されてくる、という流れになります。

 そのApple Cardですが、日本でも7月16日に商標登録申請が出されて話題になりました。新しい商標登録申請をツイートする「商標登録bot」が、Apple CardとApple Cashの商標・ロゴの登録をツイートしたのです

 申請されただけなので、まだ登録されたわけではありませんが、日本でのサービス展開を念頭に置いた動きとして、注目が集まりました。軽減税率に向けてキャッシュレス化がトレンドとなる中、日本で半分以上のシェアを維持するiPhoneを通じたモバイル決済の取り組みが注目されるのです。

※特許庁への出願番号は2019-0972262019-097229

●Apple CardとApple Cashが対で登録された理由

 Apple Cardと、すでに展開されているApple Cashについて整理しておきましょう。

 Apple Cardは、アップルとゴールドマンサックスで発行するクレジットカードで、国際ブランドはマスターカードとなります。Apple Pay対応店舗ではiPhoneやApple Watchなどで非接触ICを用いた決済ができ、オンラインのApple Payも利用できます。先述のチタンカードを用いれば、マスターカードが利用できる世界中の店舗で利用できます。

 Apple Cardは、Apple Payでの利用を基本としてセキュリティを高めていると同時に、券面にカード番号やセキュリティコードを刻印せず、カード自体を通じた情報漏洩を防ぎます。また、あらゆる情報をiPhoneで管理する点も特徴です。

 Walletアプリでは、1つずつの決済に加えて、今週の出費やその月の出費、支出のジャンルごとの分類などが見られる他、引き落としのタイミングや金額も確認でき、引き落としの金額の調整も可能になります。

 また、Apple Cardにはリワードプログラムがありますが、ポイントやマイルではなく、実際のお金の価値として還元されます。ここで還元される方法に、Apple Cashが使われます。そのため、Apple Cardを展開する場合、必ずApple Cashも展開することになるのです。

●実は機能と用途を制限するインターフェイスで、あざやかに実現されたApple Cash

 Apple Cashはもともと、Apple Payを個人間送金に対応させる仕組みとして登場しました。VenmoやSquare Cashのように、銀行口座から手数料無料でApple Cashに入金し、iMessageの相手に手軽に送金できる仕組みです。

 しかし筆者も米国でApple Cashを使っていますが、これを「新しい金融サービス」や「フィンテック」と評価することはできません。

 Apple Cashのバックエンドは、米国の銀行の当座預金口座(チェッキングアカウント)と、それに紐づいたデビットカードです。これらは何十年も変わらず利用されている銀行のサービスで、なんの新規性もありません。

 つまり、Apple Cashの個人間送金は言うなれば同じ銀行の口座間の送金をしているようなものですし、Apple Cashへの入出金も自分の当座預金口座とApple Cashの当座預金口座の間の送金です。ちなみに米国でチェッキングアカウント同士の送金には手数料がかかりません。そして店舗での利用はデビットカードによる決済ということになります。

 Apple Cashは確かに新しい金融サービスに見えますが、実装は既存の銀行の仕組みに機能と使い方を制限する「インターフェイス」をつけたに過ぎないのです。

 アイデアとしては、KDDIが三菱UFJ銀行とともにケータイ向けの銀行サービスを作った「じぶん銀行」みたいなものですが、ケータイで銀行のフルサービスを実現していたじぶん銀行とは異なり、Apple Cashでは貯蓄をしたり、投資信託を買ったり、住宅ローンを組むことはできないのです。

●そう考えると、Apple Cashはさほど遠くなさそう?

 日本ではまだ、誰がApple Cardのパートナーになるのか、Apple Cashをホストする銀行になるのかはわかりません。しかし、裏側の仕組みを見れば、完全にゼロから金融サービスを構築しようとしているわけではないので、日本でも実現できるのではないか、という希望が見えてきます。

 このシナリオの中、Apple CardとApple Cashを手っ取り早く1つのパートナーで実現するなら、NTTドコモが最適かもしれません。ドコモはクレジットカードdカードを持ち、また資金移動業者として「ドコモ口座」の送金・決済サービスを展開しています。モバイル決済のインフラ「iD」にも強みがあります。

 もちろん、KDDIやソフトバンク、楽天といった他のモバイルキャリアに角が立つため、そう簡単に選択できる相手ではありませんが、AppleがJR東日本とパートナーシップを組んでApple PayをSuicaに対応させたことを考えると、あり得なくもない選択肢ではないでしょうか。


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筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura