このP/L、本当に正しいのかな……

 早苗は島田と山崎の議論を聞きながら、昨日できたばかりの損益計算書(P/L)の速報値を眺めていた。経理部長の吉田誠が作成したものだ(下図表)。

融資打ち切りの危機

 (このP/L、本当に正しいのかな……)

 社長就任以来の半年間、簿記の勉強をしてきたので、なんとなく数値の意味は分かる。P/Lの速報値を見る限りでは、千葉精密がそんな深刻な状況にあるとは到底思えない。売上、利益ともに増加しているからだ。

 (売上が増加した理由は、松本時計向けの新規取引だけど、納品したものがクレームを受けているのよね。本当に売上に計上していいのかしら? 代金もまだもらってないし……。それに在庫が増えたってことは、売れ残りが増えたのよね。売れ残りが増えたけど、利益は増えている。これってどういうこと? 現実と乖離している感じがする。でもうまく説明できない。う――っ)

 早苗は議論の蚊帳の外に置かれ、会議では製造部と営業部の議論が収束しないまま、時間切れとなってしまった。