日本のポップス界での活躍を捨て、ジャズ・ピアニストになるべく47歳で渡米した大江千里さん。それから12年目となる今、5枚目の前作『Boys&Girls』は全米のジャズラジオチャートで70位に。ライブ活動は全米からヨーロッパにまでと広がっています。9月4日に発売になる6枚目のアルバム『Hmmm』も、さらに磨きのかかったオリジナル9曲を収録。還暦を前に振り返る人生と、音楽への冷めやらぬ思いを4回にわたり、語ってもらいました。インタビューは、隣のキャンパスから35年のファン歴のエッセイスト、森綾さん。ジャズ・ピアニストになってからの作品ごとのインタビューも手がける彼女ならではの距離から深掘りします。(撮影/榊智朗)

【大江千里インタビュー1】<br />新譜『Hmmm』に込められた、父の死と人生への思い

Senriトリオのドラマーはアリ・ホーニグだよ、とブルーノート東京が驚きました。

――お久しぶりです。しかしずっと千里さんのFacebookやnoteをフォローしているので、勝手にすごく近況を存じ上げているのですが。2日ほど前のSNS に「デトロイトで作業中」と上がっていましたよね。あれ、明後日、取材なのに、来日されないのかと焦りました。

大江 あはは。あれを見たデトロイトの知り合いも「Can I see you? Will You perform?」 と来ましたけど、違うんです、トランジットで。しかし、日本は暑いですね。気持ちだけでも冷房を強めてもらえると嬉しいな(ポタポタと汗)。飛行機のなかでPCの中身を整理していて、まだラフなんですが、新譜のなかの1曲、聴いてもらえますか。

――わ、嬉しいです。(ノートパソコンから生っぽい音が流れ出す)。…ウエストコーストっぽい感じがします。メロディーがキャッチーで爽やかですね。

大江 「Poignant Kisses」という曲です。

――(ベースソロが流れ出す)メンバーの方々も楽しそう。先日、ブルーノート東京(5月17~19日の全6公演)で一緒に演奏された方々ですか。

大江 はい、アリ・ホーニグと、マット・クロージーとのトリオです。

――そのお二方と千里さんとのご縁はどうつながったのですか。1枚目のジャズ・アルバムの頃はオーディションで選ばれたと伺った記憶がありますが。

大江 アリとは、学生の頃に縁があって、一緒にやったことがあったのです。「いやー、面白かったよ。いつかやろうよ」と言っていて。

 今回は僕のマネージャーに「アリ・ホーニグってちょっと忙しくて無理かもしれないけど、連絡先を当たってみて」とお願いしたらすぐに連絡が来て「これは責任がいる大きな仕事なので、千里が今やっている音楽を一晩じっくり聴かせてくれ、それから受けるか受けないかを連絡する」と言われたそうです。そのあと「ぜひやりたい」という話になりました。

 マットはもういろんなレジェンドともやっている名バイプレイヤーで、今、N Yで大人気のベーシストです。アリの前に別のドラマーが決まってて彼がベーシストを二人推薦してくれたのだけれど、その中の一人がマットだったわけです。で、その紹介してくれたはずの最初のドラマーがいきなりできなくなってしまいアリが決まるまで「本当に日本ツアーができるんだろうか」と不安でした。でも1回、既に行ったリハーサルでのマットとの相性がすごく良かったので「絶対に彼がいる限り大丈夫だから」と自分に言い聞かせていました。で、「ドラムはアリが決まったよ」と言ったら、マットも「wow!」とすごく喜んでくれて。ブルーノート東京の会議でも「senriトリオのドラマーはアリ・ホーニグに決まったそうです」という発表があった時「えーっ」みたいな大きなリアクションが起こったそうです。