これはライブドアが、本来であればTOBにより取得することが強制されているニッポン放送の過半数の議決権を、市場内取引(株式市場の立会外取引ToSTNeT-1と通常取引の組み合わせ)によって取得してしまった事例である。このときにも、ライブドアの行為が、少数株主も平等に支配権プレミアムを享受するために存在するTOB規制の趣旨がないがしろにされた、という批判がなされた。

 しかしながら、TOB規制にこのような抜け道があることは、当時筆者を含めたM&Aの専門家の間では広く知られていた。だが、たとえば大崎貞和によれば、公開買付制度による厳しい規制を、子会社化等による企業グループ再編や他の企業との戦略的提携の妨げとなるとして嫌ってきたのは、むしろ経済界であったとされる[注5]。なお、ニッポン放送の件を契機に、2006年証券取引法が改正され、この抜け道は塞がれた。

 今回の独立社外取締役問題も構図が似ているように思える。田中亘によれば、平成26年改正会社法の検討過程において、一定の株式会社に対し、社外取締役の選任を義務づけるべきかが、法制審議会会社法制部会で議論された。しかし、「各会社がその特性に適した企業統治を採用する自由を妨げるべきではないことなどを理由とする反対論」により義務づけは見送られた。

 田中によると「こうした反対論は、主として産業界出身者から寄せられた」、とされる[注6]。すなわち、経済界の経営の自由度を重視する姿勢が、社外取締役の選任を努力義務的位置づけにし、社外取締役が不在となっても、違法ではない状況への道を開く遠因となったと考えられる。

 ニッポン放送とアスクルの件に共通しているのは、経済界の経営の自由度を確保したいというニーズによって、ある種、規制や制度設計に曖昧さ(抜け道)が意図的に残され、その抜け道が、本来の規制や制度設計の趣旨に必ずしもそぐわない形で利用されてしまったということである。

 実際にそのような事例が出てくると、「このような抜け道の利用は、規制の趣旨から認められない」といった批判の嵐になる。しかしながら、抜け道を残すということには、それが自分たちの都合の良いようにも悪いようにも利用される可能性を残すことでもある。それが嫌なのであれば、ある程度みずからの手足を縛ることになるとしても、曖昧さを残さず、可能な限り規制や制度の趣旨が達成できるような形で当初から文言を設計すべきである。

 なお、秋に開かれる臨時国会で、上場企業や非上場の大会社に社外取締役の設置を義務づける方向で、会社法を改正することが審議される予定という。今回の件は、法律改正が後手に回るという意味でも、ニッポン放送の件と酷似している。

 論点(3)で掲げた親子上場問題についても、類似の問題がある。

 経済界は従来から、親子上場の規制には消極的であり、今回ヤフーに批判的意見を開示した団体においても、「上場子会社は、独自の資金調達手段による成長の加速や社員のモチベーションの維持・向上という利点を有する。」(日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク)、「親子上場は子会社の事業成長を加速するインキュベーション支援機能もあり」(日本取締役協会)と、親子上場制度自体には肯定的な見解をわざわざ述べている。

 親子上場については、学識経験者の中でも、その賛否は分かれる。たとえば、宮島英昭らは[注7]、上場子会社にとっては、親会社という大株主によるモニタリング機能により、業績が独立企業よりも良いと報告している。

 しかしながら、アスクルは、ソフトバンクグループから見ると曾孫会社(アスクルは、ヤフー〔親〕、ソフトバンク〔祖父〕、ソフトバンクグループ〔曾祖父〕という支配構造を持つ)である。アスクルに対して、親、祖父、曾祖父の誰がモニタリングを提供するかとなると、責任の所在は曖昧といわざるを得ない。むしろ、積み重なった4つの親子関係といういびつな支配構造の中で、より複雑な少数株主問題が内在しているように思える。

 かつて、ニッポン放送・ライブドアの件を契機に、TOB規制が見直されたように、今回のアスクルの件は、親子上場に関する規制や制度設計、そして上場子会社のガバナンスに関して議論する格好の機会を与えてくれたといえる。経営の自由度を理由に、こうした議論を封じるのでなく、親子上場のメリットとデメリットを検証し、どのような形態や条件の下で上場子会社が許容、もしくは規制されるべきかという議論を進めるべきであろう。

[注5]大崎貞和 [2005]「ニッポン放送をめぐる経営支配権争奪と資本市場法制」(資本市場クォータリー 2005 Spring・野村資本市場研究所)

[注6]田中亘 [2017]「企業統治改革の現状と展望」、宮島英昭編著「企業統治と成長戦略」第11章第3節3.2(東洋経済新報社)

[注7]宮島英昭、新田敬裕、宍戸善一 [2011]「親子上場の経済分析」、宮島英昭編著「日本の企業統治」第7章(東洋経済新報社)