物理的なレイヤーでネットワークの主導権を中国企業に握られる懸念を、米国は継続的に示しています。具体的にはハードウエア機器のファームウエアのアップデートなどが行われた際、コントロールできないバックドアを作られるリスクです。物理的なレイヤーという意味では、米国は海底ケーブルについても中国に握られることに懸念を示したことがあります。デジタルテクノロジーの物理的なレイヤーの根幹として、海底ケーブルとその陸揚げ局の位置は重要です。その影響からか、ファーウェイは英グローバル・マリン・システムズとの合弁会社である海底ケーブル会社、ファーウェイ・マリン・ネットワークについて株式売却や事業撤退を検討していると伝えられています(出所:米ブルームバーグの19年6月の報道)。

かつての日米半導体摩擦や
東芝ココム事件を想起させる

 米国の有力シンクタンク、CSIS(戦略国際問題研究所)のシニア・バイス・プレジデントであるジェームス・ルイス氏は、「ファーウェイは産業スパイの疑いがあり、ノーテルネットワークス(カナダの通信機器大手)の経営破綻の一因は、ファーウェイに技術の盗用とコピーをされたことにある」と語っています。しかし、ファーウェイが何らかの産業スパイに関わったという明らかな証拠はありません。

 米国の政治における安全保障派と経済派の論争と政策の揺れ動きは珍しいものではありません。日本のビジネス界でも「ファーウェイ事件に、日米半導体摩擦や東芝ココム事件を思い出した」という声を少なからず聞きます。米国は他国に経済規模としての脅威を感じた場合、経済政策で覇権を取り返しに来るという意味でしょう。「海外企業が一定の規模を超えると、米国は必ず政治的にたたきに来る」と言う日本の大企業(製造業)の経営者もいました。ただ、日米貿易摩擦とは異なる点があります。日米は同盟国であり、安全保障上の懸念ではなく純粋に経済問題として捉えることができたことです。

 米国はインテリジェンス(諜報)において特別な関係を持つファイブアイズ各国(米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)に対し、ファーウェイへの懸念を強く伝えています。一方で英国は従来ファーウェイと関係が深く、ファーウェイを排除せずに、機器を限定的に利用する予定だとしています。米国側関係者は、英国はブレグジットにより経済的な不安定要素もあり、英国が中国と距離を置きにくい事情を指摘しています。ファーウェイ問題において英国では安全保障より経済的理由が優先されているともいえます。

 今ではにわかに信じ難いことですが、米国は中国に人工衛星技術を1988年から輸出していました。それが90年代後半に輸出禁止となった際には、安全保障と経済のどちらを優先すべきかという議論が米国で起こりました。ファーウェイの扱う5Gの基地局設備は民生品であり、外形的にはデュアルユース(軍用品と民生品の両用技術)問題を引き起こすものではありません。しかしデジタルテクノロジーの物理的根幹を握るパワーであり、もしも一国の政府が支配した場合には、諜報から通信の妨害までが想定され、兵器化、つまり安全保障と経済上の取引材料となるために大きな論点となっているのだと思います。