今、リアルとネットの融合が急速に進んでいるのが、ファッション業界だ。若い世代を中心にオンラインで服を買うことへの抵抗感が薄れ、電子商取引(EC)の市場規模が拡大を続けている。豊富な資金と最新テクノロジーを武器にそれを狙うアマゾン。一方でリアル店舗の側もデジタル化で対抗する。攻防の最前線を追った。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)
年間100万点超の商材写真を生産
アマゾン最大の撮影スタジオ
打ちっ放しのコンクリート壁に天井を這う銀色の配管――。それはまるで、巨大な工場のようだった。
だが、ベルトコンベヤーもなければロボットもない。色鮮やかなワンピースをまとった女性モデルが軽やかにポーズを取り、その瞬間を捉えるカメラの無機質なシャッター音が響く。
ここはアマゾンジャパンが昨年3月に東京・品川シーサイドで開業したファッション専用の撮影スタジオだ。米ニューヨーク、英ロンドン、インド・デリーに続く4ヵ所目だが、4階建て延べ床面積7500m²の規模は世界最大だ。
3階はスチールと動画の計16の撮影ブースに区切られ、その間をスタイリストやヘア・メーキャップアーティストらが忙しそうに行き来する。繁忙期は春と秋だが、8月下旬のこの日も複数のブースが同時進行で稼働していた。
あるブースでは、日本人女性のモデルと外国人スタッフが撮影を行っていた。カメラはスチールと動画を同時に撮れる最新鋭のものだ。
カメラマンが撮った写真はその場で横のモニターに映し出され、複数枚の中から男性アートディレクターが「メイン」「サイド」「バック」などの写真をボタン一つで選び編集。さらにそれを別の技術担当の男性が実際の服と見比べ、よりリアルな色に補正していく。写真はすぐに海外に送られ、そこで最終的な補正作業が行われる。
「48時間以内に写真はアマゾンファッションのサイト上にアップされるよ」。アートディレクターは、次々に撮影される写真の編集作業に手を動かしながらそう話した。
このスタジオでは年間100万点を超える商品画像や動画が撮影、制作されるという。仮に年間稼働日を245日とすると、1日4000点超の計算だ。
色や生地の質感を正確に表現し、それを計算し尽くされた分業体制で大量生産していく。それはまさに、アマゾンが得意とする効率化のノウハウが詰まった“工場”だった。
「本や家電なら分かるが、なぜアマゾンが『ファッション』をやるのか」――。
アマゾンジャパンのファッション事業を統括するジェームズ・ピータース本部長は、「いつもそう聞かれる」と苦笑する。