日本の人口に匹敵する1億人超の有料会員を抱えるアマゾンは、もはや仮想国家とでもいうべき存在だ。今、その彼らの前に立ちはだかるのが、リアル国家である。日本の規制当局が、アマゾンを含む巨大デジタルプラットフォーマーの強大化を防ぐべく動き始めた。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)
プラットフォーマーの
下請けと化す日本企業
「日本企業はプラットフォームを全て取られ、競争力の源泉を失ってしまった可能性がある。イコールフィッティング(競争条件の平等化)を今図らなければ、日本企業からイノベーションが生まれなくなる」
公正取引委員会のある幹部は「あくまでも私見」とした上で、そんな危機感を語る。この幹部が一例に挙げるのは、米アップルのスマートフォン「iPhone」だ。
中核部品の有機ELパネルは、かつて日本企業が技術開発で先行していたが、事業のリストラを進める中で韓国勢に追い抜かれた。iPhoneへの供給は韓国サムスン電子がほぼ独占する。日本のメーカーも部材を供給しているが、利益の大半を手にするのはアップルや中核サプライヤーたちだ。日本企業の役割は、彼らの「下請け」にすぎない。
電機業界だけではない。例えば日本勢が強いプレゼンスを持つ自動車業界においても、次世代の自動運転技術で米グーグルが他社をリードする。自動運転に関するあらゆるデータを彼らが囲い込み、業界のプラットフォーマーとなったとき、トヨタ自動車やホンダは単に車を供給するだけの下請けになるかもしれない。
グーグルやアップル、フェイスブック、それにアマゾン・ドット・コムの米IT系企業は、その頭文字から「GAFA」と総称される。GAFAに代表されるデジタルプラットフォーマーは、消費者や事業者を相互につなぐ市場(プラットフォーム)を運営する企業体であり、インターネットの検索サービスやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス=会員制交流サイト)など人々の日常生活に欠かせないサービスの多くを無料で提供し、利便性をもたらしている。
プラットフォームを介して消費者と事業者がつながる二面市場では、消費者が増えるほど効果が増大するネットワーク効果が働くため、独占的もしくは寡占的になりやすい。プラットフォームが巨大であればあるほど、消費者や事業者にとってメリットが大きく、誰もがこぞってプラットフォームに参加するからだ。
その結果待ち受けるのは、勝者が支配的地位を占める「ウィナー・テーク・オール(勝者総取り)」の世界だ。
今、小売・流通業界において確実にプラットフォーマーの地位を獲得しつつあるのが、アマゾンだ。“市場の番人”である公取委は、独占禁止法の下で、アマゾンとの神経戦を繰り広げている。