その原因は、「今回違法とされたデータの『選別又は加工』の明確な定義はなされなかった」(倉重氏)からである。
たとえば、いまや募集情報提供事業者が当たり前のように行っている「表示順の変更」や「おすすめ」「レコメンド」「マッチ度」の表示が、データの選別・加工に当たらないのか、明確な規定はない。また、その選別・加工した情報を「みだりに他人に知らせてはならない」という文言のみでは、自社が提供するデータが「本当にシロなのか」が、作っている本人たちでもわからないという事態になっているのだ。
「(リクルートキャリアの件は)あくまでも個別案件であり、今後も案件ごとに調査する」(厚労省幹部)という。「ちょうど厚生労働大臣が交代する直前のタイミングだった。政治的なパフォーマンスではないか」と揶揄する声も少なくない。
とはいえ、HRテックに関する分野の技術の進化は急速である。
たとえば、書類選考から採用に至るまでの全ての情報はもちろん、採用で不合格になったり、内定辞退されたりした人、さらにはイベント参加者や社員のOB訪問程度の学生の情報まで、過去接触を持ったあらゆる人をデータ化する「タレントプール」(採用母集団形成)と呼ばれるクラウドツールの利用企業も増えている。「学生からのアプローチも採用ツールでプールしておき、数年後にアプローチできるようにしている」(採用管理ツール業者)というわけだ。
何をやるかは別として、リクナビが内定辞退率のアルゴリズムを自社で開発できたように、情報提供事業者側にデータの蓄積が進み、さまざまなツールのデータをつなぎこめば、「できること」は増える。モニタリングやスコアリングが日常的に行われるようになれば、さらに深い個人情報が蓄積されていくだろう。
ただ、できることが増えても、「やっていいこと」がわからなければ、企業は何も使えなくなるし、HRテック業者側も、おのずと何も作れなくなるだろう。
新卒一括採用が将来的になくなることになれば、今まで以上に個人の職種やスキルの情報を、企業は欲しがることになるだろう。そうした時代において、精度の高いマッチングができれば、個人と企業双方にとって効率化につながるため、データの利活用の流れを止めてしまうのは本末転倒だ。
むしろ、第2第3のリクルートを生まぬよう、人材データへの明確なルールを早急に整える必要があるだろう。
(ダイヤモンド編集部 相馬留美)