どこまでが「シロ」なのか?
不安が募る人材業界
こうした「リクナビショック」に肝を冷やしたのが、人材ビジネス関係者たちだ。
リクルートキャリアの行った行為を冷ややかに見つつも、「全社のプライバシーポリシーや利用規約を総点検した」(新卒採用サイト運営会社)と各社が対応に追われている。
個人情報に関して、人材業界は大規模な個人情報流出や、利用規約・プライバシーポリシーに関する炎上などの紆余曲折を経て、現在はデータ使用に対してかなり慎重ではある。
他業態では、2013年のSuicaの乗降履歴分析などがあるが、HRテックでも事例はある。例えば、16年にHRテック企業のウォンテッドリーが、名刺管理アプリ「Wantedly People」を利用し、個人がアップロードした名刺データのアドレスを、ウォンテッドリー側が利用できるように読み取れる利用規約になっていたことで炎上した。
こうした積み重ねが、「本人の同意を取るだけではだめだ」とエンジニアを慎重にさせていった。
「HRテック系の会社はエンジニアの発言権が強いため、開発時点でかなりセンシティブになっている」(採用メディアのエンジニア)。
だが、リクルートのような人材ビジネスのレガシー企業では、エンジニアよりも営業の発言権が強い。現場では、「DMPフォローと契約すればリクナビ掲載料を値引きする」というようなセールストークも行われていた。
DMPフォローを企業に使わせることができる「強い営業力」が、かえってあだになったのである。
また、そもそも人材紹介という側面でも、「企業に人材を紹介するとき、『この応募者は最終選考に進んでいる会社が2社あるから、早く内定を出したほうがいい』と伝えることはよくあること。内定辞退の可能性をデータで伝えるのが違法であれば、直に聞かれて答えるのはよいのだろうか」(元キャリアコンサルタント)と現場は困惑している。
ただ、今回のリクナビショックの与えた影響は「内定辞退」という新卒市場だけではない。
「『うちの会社のサービスは違反していないか』という問い合わせがじゃんじゃん来ています」と話すのは労働法に詳しい倉重公太朗弁護士だ。
厚労省幹部は「今回の行政指導はあくまでもリクナビの事例のみが対象になったものだ」というが、その通りに受け止めている企業はない。