『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)や『わけあって絶滅しました。』(ダイヤモンド社)など、いま動物図鑑が売れに売れている。この2冊を手がけた動物学者の今泉忠明と担当編集者の金井弓子による対談企画。第1回は「生き物の魅力」について、第2回は「ベストセラー作品の誕生の裏側」について語ってもらった。最終回となる第3回は、“いま子どもが一番会いたい動物学者”として知られる今泉先生の現在の活動について聞いた。(聞き手/澤田 憲)
半年かけて絶滅危惧種のニホンカワウソの撮影に成功
――今泉先生は、図鑑の執筆や監修のお仕事と並行して、世界各地にさまざまな動物の調査に行かれていますよね。
今泉 そうですね。日本では絶滅危惧種のイリオモテヤマネコや、すでに絶滅したとされるニホンカワウソの調査にも行きました。海外だとアメリカのハイイログマとか、コモド島のコモドオオトカゲ。あと、ヒマラヤ山脈に未確認生物のイエティを探しに行ったこともありますね。これはテレビの企画だけど(笑)。
金井 1回の調査で、どれくらい滞在されるのですか?
今泉 大体40日くらいかな。それくらいいないと何もわかんない。ニホンカワウソの調査のときは写真1枚撮るのに半年かかりました。
金井 写真1枚に、半年…! やっぱり時間がかかるんですね。実際に、現地ではどんな調査をされているんです?
今泉 ニホンカワウソのときは高知県の足摺岬に行って、一人で海岸にテントを張って観察を続けました。僕が調査に行ったのは1972年なんだけど、すでにその7年前には国の特別天然記念物に指定されていて、絶滅が危ぶまれていましたね(※その後ニホンカワウソは2012年に環境省によって「絶滅した」と宣言された)。
金井 ただでさえ数が少ないから、調査も一筋縄ではいかなさそうですよね。
今泉 うん。ニホンカワウソは夜に活動するから、昼間に森の中を探してもまず見つからない。だから探すんじゃなくて、おびき寄せるんです。
金井 え、どうやってですか?
今泉 そのときは、テントの前に小さな池を作って、その中に四万十川で捕った小魚を10匹ほど入れました。それから池の周りには細かい砂をまいておく。カワウソが魚を捕りにきたら足跡が残るようにね。あとは、夜中でも撮影できる赤外線カメラを仕掛けておいて、僕はテントの中で一晩中モニター画面を監視していました。
金井 すごい、まるでゲリラの基地みたいです……。
今泉 それが、来るのは野良ネコとかイタチばっかりで、カワウソは全然来ないの。そのうち夜が明けちゃって。「なんだよチクショウ」と思って、テントから出てカメラを片付けてたら、目の前をパーってカワウソが走っていった。
金井 ……タイミング!
今泉 だからやっぱりね、本に書いてあるのと実際に見るのとでは違うんですよ。その後も何度か朝にカワウソが走っているのを、僕見てますから。夜行性といっても、絶対に夜にだけ活動するわけではない。文字や数字にすると削ぎ落とされてしまうような、細かい部分や少数の部分に、意外な事実が隠れていたりするんですね。