ただし、あくまで素材からのアプローチに限定されています。現実的な問題として、目で見て触れるコンセプトカーがあれば、技術者同士で話が進めやすいという利点があるし、世の中に対しては宣伝(ショーケース)にもなる。

 現在、自動車産業では「100年に1度の変革期」と言われる中で、先に挙げたCASEやMaaSなど、さまざまなバズワードが流通しています。おそらく、自動車産業の将来について、最も危機感を抱いているのは、トヨタ自動車の豊田章男社長だと思う。これから起こる大きな変化は、素材だけで解決できるわけではない。この辺りの話は、今度、章男社長に話をしに行こうと考えています。

 最近、私が驚いたのは、この2~3年で再び活気が戻ってきた半導体産業です。今、大量に購入して使っているのは誰かと言えば、(1)米フェイスブック、(2)米アマゾン、(3)米グーグル、(4)米アップル、(5)米マイクロソフトです。かつて半導体の大口需要家と言えば、通信機器メーカーかパソコンメーカーでしたが、今日では米国のITサービス企業5社が半導体の未来を決めている。

 便利なスマートフォンは、ツールに過ぎません。いずれ、自動車産業もそうなる。悲観するのではなく、ビジネスチャンスであり、新しい産業を生み出す転換点と捉えるべき。日本の産業界は、ここで乗り遅れるわけにはいかない。

――しかし、日本では理工系の学生がメーカーに就職せず、ITサービス産業に向かうという変化が起きています。NTTの研究所からも、米グーグルなどに転職する研究者が後を絶ちません。化学メーカーは、子ども向けの化学教室などを開いていますが、化学の力で世の中を牽引した高度成長期とは異なります。

 若い人たちの目が化学に向かないという点については、私としても危惧しています。小さな子どもたちを含めて、若い世代に対しては、「化学の面白さ」を訴えていかなければならないと考えています。個人的にも、そう思う。

 インターネットの技術が発達したことにより――玉石混交とはいえ――情報は簡単に入手できるようになりましたし、世間では「もはや、自然界で新しい発見はなく、全てが分析され尽くしている」というようないいかげんな言説も目立ちます。いやいや、生命の神秘や脳の働きなどはまだ分かっていないことばかりですし、電子の世界でもイオン(正または負の電気を持つ原子)の世界でも、はたまた超深海でも宇宙空間でも分かっていないことは、たくさんある。 実際、世界は謎に満ちていますし、ネタはいくらでも転がっています。

 そう言えば、これからの世の中は、環境・エネルギーの領域で起こる「ET革命」を抜きには考えられない。ETというのは、Environment&Energy Technologiesの頭文字をつなげた概念で、変革のスケール(規模感)は先行するIT革命よりも大きくなりそうだ。近々、私の仮説として「未来のモビリティ社会やエネルギー社会は、こう変わる」という流れを7分間くらいの動画にまとめて、YouTubeなどの配信サービスで公開する計画を進めています。もう少し、待ってください。