端的に言えば、考古学の研究手法は、化学メーカーにおける研究開発に通じるものがあります。考古学は、文献などのテキストがほとんど残っていないという状況下で、遺跡を壊さないように丁寧に発掘して出土品を分析する。地形や地質なども勘案しながら、「当時の人々は、このような生活を送っていたのではないか」などと仮説を立てては検証し、妥当性のある論理を組み立てていくというプロセスの繰り返しです。こうしたアプローチは、旭化成に入ってからの研究でも、4番目のテーマとなったリチウムイオン2次電池でも同様でした。
――先ほど、研究開発では「時代の流れを読む嗅覚」という話がありましたが、日頃から、吉野さんが先を読むために心掛けている習慣などはありますか。
「現在から」、ではなく、「過去から」、未来を見ることです。
今、世の中でトレンドと言われている情報をたくさん集めて未来を予測しようと試みても、変化のスピードが早く、情報が溢れている状況下ではピシッとした照準を絞ることができない。IT革命で、時代はめまぐるしく動いている。
将来の予測をする上で重要になるのは、(1)過去数十年という短いスパンで人類の歴史を眺めて、過去から現在までの変化をたどってみることです。もう一つは、(2)過去1000~2000年という長いスパンで人類の歴史を捉え、大きな流れをつかむことです。私は、長短のスパンで時代を読むのが大切だと思う。
技術というものは、日進月歩で変わります。しかし、次々に便利なITツールが登場しても、“人間の本質”というものはそう大きく変わりません。
世の中は、なぜ今日のように変化してきたのか、どうして人々の意識は移り変わったのか、過去の歴史で似たような事例はなかったか、現代の変革で参考になる出来事はなかったか。過去からの歴史の延長線上で、5~10年の近未来と20~30年の中長期の未来を想像する。自ずと、照準は絞られてくるはずです。
近々、YouTubeなどで
仮説を公開する準備中
――現在、化学メーカーは、国内外の自動車部材メーカー(Tier2)にアピールするために、自社が持つ技術を「これでもか」と詰め込んだコンセプトカーを発表しています。旭化成も、数億円を費やして、実際に走る「AKXY」(アクシー)を開発しました。吉野さんは関係者とはいえ、突き放して見てどうですか。
正直、よく造ったなあと思いました(笑)。