質問されていないことにも
なぜか言及する不思議さ
これだけ「回答を差し控える」ことが続くと、仮に本人はそう思っていなくても、「事態を深刻に受け止めていない」と聞き手から思われてもしかたがない。当然、「コンプライアンスの問題を軽視している」という印象も持たれてしまう。
もちろん、記者会見では、必ず細部に至るまで全てを話さなければならない、というわけではない。しかし、これだけ回答をしないのは大問題だ。「言えないことがある」「隠しごとをしている」「もっと大きな問題を抱えている」という疑念を抱かせるに十分だ。これでは、会社全体がこういう体質だと思われても仕方がない。
岩根社長は「回答を差し控える」理由として、個人情報であることを持ち出している。しかし、記者は個人情報に配慮して質問しており、固有名詞を聞き出そうとしているのではない。
「受領した金品の上限、下限は?」「金品を受領した20人は原子力事業部が中心か?」という質問は、なにも個人情報を含めなくても返答できる。本人にそのつもりがなくても、個人情報を盾に隠ぺいを図ろうとしていると思われてしまう。
そして、興味深いことに、記者から質問されていないことに対してまで、詳細は差し控えるという返答をしているのだ。
●何をもらった?…金額は差し控えます。いわゆる金品ではない
●社内処分は会長と社長だけか?…他の人間にもしています。具体的な人数、内容は控えたい
●(金品の返却について)記録はないのですか?…いつかという答弁は差し控えたい
これらの問答は非常に特徴的だ。何をもらったかと聞かれて「金額は差し控える」、会長と社長だけかと聞かれて「具体的な人数、内容は控える」、記録はないかと聞かれて「いつかという答弁は控える」というように、質問内容を超えた部分にまで、自ら言及して「回答しません」と言っているからだ。
記者の本意を斟酌して親切に返答しているといえなくもないが、必要以上に防御の姿勢を強調することになってしまっている。
この手の記者会見の登壇者は、想定問答集をしっかりと勉強して抜かりない回答をするように事前にトレーニングを受けるものだ。もしかしたら、聞かれていないことにまで自分から言及してしまうのは、この「想定問答集」の副作用かもしれない。
トレーニングをすることは悪くないが、想定問答集に頼り切り、都合の悪い質問は全て「回答を差し控える」でスルーしようという姿勢は、トップとしては失格である。
特に、「回答を差し控える」というような、木で鼻をくくったようなフレーズは、不透明性を増すだけでなく、相互の信頼関係を損なう。そのフレーズを連発する本人が組織を束ねる役割を担っているなら、組織全体の信頼性を損なってしまう典型的なトンデモ事例なのだ。