深掘型と拡張型の組み合わせ

 深掘型と拡張型を組み合わせることも可能です。

 私が某メーカーにおける管理職研修の講師をしたときのことです。研修を担当している人事部の中に、20代後半の若手社員がいました。あるリフレクション・エクササイズをしたところ、この方の強みの1つが「プレゼンテーション技術」であることがわかりました。

 この若手社員は「いろいろと工夫をしながらプレゼンテーション資料をつくり、わかりやすく説明して、聞いている人が満足してくれたときに、一番喜びを感じる」と説明してくれました。

 そこで、彼には、パワーポイントを使ったさまざまな研修資料をつくる役割が与えられました。しかし、パワーポイント資料の作成だけでは、単なる「プレゼン屋さん」になってしまいます。そこで彼の上司は、仕事の幅を広げて、研修企画、研修の総合司会、およびそれまで外部業者に委託していた映像関係の仕事(参加者の様子をカメラで大画面に映す仕事)を任せることにしました。

 つまり、もともと彼が持っていたプレゼンテーション技術という強みをスケールアップするために、「資料作成」だけでなく「企画+司会+映像業務」をプラスしたのです。この若手社員は、「プレゼンテーション能力の一層の向上」と「企画力やファシリテーション力のアップ」という成長ゴールを示されたことでモチベーションが上がり、その大役を見事こなして、人事担当者として大きく成長することができました。

 しかし、この方法には注意も必要です。ガス会社経理部のマネジャーは、自身の失敗談を語ってくれました。

「53歳女性の部下がおりまして、基準や規則通りにきっちりと正しいことを着実に進めることができます。
 それまでは単独で仕事をするスタイルが中心だったので、マネジメント力をアップしてほしいと思い、他部署を巻き込んで効率化するように指導しました。
 しかし、慣れない役割に対応できず、半年経った面談で『私には無理です』と爆発してしまったのです。
 この経験から、自分の仕事スタイルが固定しているベテランに新しいことを求め過ぎるのは無理があったと反省しました。彼女については、専門知識やスキルを深める形で目標を設定してあげたほうがよかったと考えています。
 ベテランメンバーの活用としては、その方が手掛けている業務とのつながりで挑戦してもらうとやりがいを持てると思います。ただし、変革意識を持っている人であれば50代であっても変化することは可能です」

 このケースから、部下の強みとポテンシャルを見極めて、その人の成長をサポートする必要があるといえます。

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第1回 育て上手のマネジャーは部下をどのように指導しているのか
第2回 弱みに目を向けるだけでは、部下は成長できない
第3回 「育て上手のマネジャー」と「平均的マネジャー」はどこが違うか?
第4回 部下の中に眠っている「潜在的な強み」を探る方法