――どんな企業がうまくストーリーを活用できているのでしょうか。

 テスラは、よいストーリーを持った企業の一つです。

 創業者イーロン・マスクのストーリーは、「地球を救う」という高次の目標を持って会社を立ち上げたところから始まります。彼はこの目標の下、計画を立てました。まずは、高級電動スポーツカー(テスラ・ロードスター)をつくって売り上げを次への資金にあて、次にセダンの電気自動車(モデルS)、そしてさらに低価格の電気自動車(モデル3)をつくるというのです。

 彼の成長ストーリーは、高い技術力の下で実現していき、組織内外に大きな影響をもたらすことになりました。
 
 しかし、いくら力強いストーリーがあっても、商品や技術力など、“中身”が伴わなければ意味がありません。

「1滴の血液で検査をする」とうたった医療ベンチャー“セラノス”を覚えていますでしょうか。

――シリコンバレーがだまされたという……。

 そうです。創業者はカリスマ性あふれる若き女性、エリザベス・ホームズ。スタンフォード大学を中退した彼女は、ほんの1滴の血液からさまざまな病気がわかる検査を実現するといってセラノスを設立し、多額の資金を集めることに成功しました。彼女のストーリーは、あまりにも圧倒的でした。

 しかし、ふたを開けてみれば、そんな技術はどこにもなかった。結果的に、ストーリーが素晴らしいから、推定90億ドルともいわれる資金が集まったのです。それだけストーリーには人を動かす力があるといえるのかもしれませんね。

デービッド・アーカー(David Aaker)/カリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクール名誉教授(マーケティング戦略論)。ブランド論の第一人者として知られ、マーケティング・サイエンスの発展に著しく寄与したことに対して「ポール D.コンバース(Paul D.Converse)」賞を、またマーケティング戦略への業績に対して「ヴィジェイ・マハジャン(Vijay Mahajan)」賞を受賞。発表論文は100本以上、著作17冊の売上部数は100万部を超え、18ヵ国語に翻訳されている。主な著書に『ブランド論』『ブランド・エクイティ戦略』『ブランド優位の戦略』『ブランド・リーダーシップ』『ブランド・ポートフォリオ戦略』『シナジー・マーケティング』(以上、ダイヤモンド社)などがある。