ヘッドハントもするし、求人広告も出す。エルピーダで一緒に働いた設計者については、誰が優秀かはもちろん分かっている。ただ彼らがごそっとマイクロンを辞めるような事態は避けたい。

 僕が想定しているのは、ルネサスエレクトロニクスのような国内半導体メーカーや、台湾のメーカーで現状に不満を抱えながら働いている人材だ。本来は優秀で意欲もあるのに、会社の戦略で細分化した業務しか与えられず、自由度のない働き方に甘んじている人は相当数いる。いいDRAMを作るためには設計者は、限られた部分だけではなく、製品全体を考えなければならない。そのために企業は、彼らに自由度を与えなければならない。紫光では待遇もさることながら、彼らが面白いと思って働いてもらえる環境を提供できるだろう。

――米国は中国の技術獲得を強く警戒しています。昨年10月には米商務省が、中国のDRAM国産化メーカー・福建省晋華集成電路(JHICC)に対して、米国からの輸出を禁止しています。こういった経緯を踏まえると、坂本さんの日本での活動にも困難さがつきまとう可能性が大いにあります。

 難しさや批判があることは、ある程度は覚悟して引き受けた。日本の公的なお金をもらうわけではないので、日本政府は苦々しく思ったとしても、表立って何か対処してくることはないだろう。

 それよりも僕が思うのは、「経済は経済」ということ。米国が政治的な観点から中国に経済制裁を加えるのは、正しいことだとは思わない。政治と経済は分離すべき。自由な競争が正しいのだ。

――米国が主張しているのはまさにそこです。中国企業こそ政府の支援とそれによる潤沢な資金を得て、フェアではない競争を仕掛けているというのが米国の主張です。

 政府による支援の仕方、お金の出し方にもいろいろある。お金に一定の「意図」を付けてやるのは良くないかもしれないが、意図のないお金であれば問題はない。僕は中国政府のお金に、何らかの意図があるとは考えていない。

さかもと・ゆきお 1947年群馬県生まれ。70年日本体育大学卒、日本テキサス・インスツルメンツ入社。神戸製鋼所などを経て2002年にエルピーダメモリ(現マイクロンメモリジャパン)社長。経営破綻に伴い、13年に退任。