労働時間の半分近くが「移動」と「会議」
非効率を徹底的に見直した営業部門

 西井氏が時短に取り組もうと考えたのは、「世界で戦える企業になるためのダイバーシティ(人材の多様性)の実現」という社長としての思いがあったからだ。

 海外進出に早くから取り組み、国や地域によって異なる食文化が反映される「食品」を商品とする味の素では、国際感覚とともに多様な価値観による商品開発やマーケティングが求められる。それゆえ、人材のダイバーシティは欠かせないのだ。

 そのために西井氏は「グローバル基準の働き方」を実現しようとした。その第一歩に「定時終業を前提とする働き方」があるとして、「残業ゼロ」を経営の優先課題に据えたのである。

 時短の数値目標に対する現場の反発もあった。特に営業部門からは、「取引先の都合を無視できない」「売り上げが落ちたら誰が責任を取るのか」といった声が上がった。

 ところが営業部門の社員に日々の業務を洗い出させてみると、明らかな無駄があることが判明した。全労働時間の25%が「移動」、20%が「会議」に費やされていた。

 例えば、オフィスから離れた地域を担当する営業社員は、朝礼や社内会議に参加するために担当エリアとオフィスの非効率な往復を余儀なくされていた。会議のために1時間かけて担当エリアから戻り、会議が終われば再び1時間かけて担当エリアに戻る、といった具合だ。

 改革では、それらに対し、朝礼を廃止して客先に直行できるようにする、すべての会議の是非をゼロベースで見直し、しなくてもいい会議はしない、開催するにしても頻度や時間を減らす、ウェブでの遠隔参加を推奨するなどの対策を打った。

 すると、それだけでも初年度で1人当たり年間20〜30時間の会議時間を削ることができた。

 さらに味の素は、シェアオフィスの事業者と契約し、サテライトオフィスを各地に展開。社員は最寄りのサテライトオフィスに出社し、スマホのアプリで始業を会社に報告すればよくなった。

 それに加え、2017年からは在宅勤務のルールを大幅に緩和。誰でも自宅や外出先、サテライトオフィスなどあらゆる場所で好きな時に仕事ができる「どこでもオフィス」制度を導入した。

 以上の改革を実行しても、顧客に対応する時間が変わらないことにお気づきだろうか。味の素の営業部門での時短戦略は、「顧客の都合」を尊重したまま、それに関係しない業務時間の無駄をなくす、というものだったのである。