ビジネスパーソン必修の「理論・フレームワーク」5つの見分け方Photo:123RF

山章栄氏の最新刊『世界標準の経営理論』は、世界約30の経営理論を、可能な限り網羅・体系的に、そして圧倒的なわかりやすさでまとめたものだ。

多くのMBAの教科書は、フレームワークと理論(の浅い解説)がごちゃ混ぜになっている。参考文献や引用の羅列、データの記述や概念の説明、命題や仮説だけでは理論とはいえない。たとえば、SWOTやVRIO分析がその一例だ。こうしたフレームワークと理論の混同が、ビジネスマンを混乱に陥れている。序章「経営理論とは何か」から抜粋して全5回にわたってお伝えする本連載。連載最後となる第5回では、経営理論とフレームワークを5つに分けて解説し、混乱を解消する。

MBAの教科書は混乱している

 多くのMBAの教科書は、フレームワークと理論(の浅い解説)がごちゃ混ぜになっている。

 図表1をご覧いただきたい。先の議論を踏まえると、理論とフレームワークは、以下の5つのタイプに分けられる。

ビジネスパーソン必修の「理論・フレームワーク」5つの見分け方
(図表1)拡大画像表示

 タイプ1
 まず、「経営理論とは関連のないフレームワーク」がある。SWOTやBCGマトリックスが代表例だ。これらはコンサルタント等が、その実務経験を通じて生み出したものが大部分だ。これらの多くは分類・整理をしているだけなので、whyには応えない。

ビジネスパーソン必修の「理論・フレームワーク」5つの見分け方 入山章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授
慶応義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。 三菱総合研究所で主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。 2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。Strategic Management Journal, Journal of International Business Studiesなど国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。 著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)がある。
(Photo:Aiko Suzuki)

 タイプ2
「経営理論から落とし込まれたフレームワーク」である。SCP理論から落とし込まれたファイブ・フォースやジェネリック戦略がその代表例だ。このタイプの問題は、フレームワークだけ提示されても、背景の理論がないと「なぜそう言えるのか」のwhyの納得感が弱いことだ。

 タイプ3
 タイプ2との対応で、「フレームワークのもとになっている経営理論」がある。SCPがその代表であり、RBVやリアル・オプション理論なども一部フレームワーク化が試みられている。これらを知ればwhyがわかるので、タイプ2のフレームワークの意義も理解できる。しかし問題は、必ずしもMBAの教科書ではタイプ3に説明が割かれないことだ。加えて、先にも述べたように、そもそもフレームワークまで落とし込まれた理論の数は著しく少ない。

 タイプ4
 実は、フレームワークに落とし込まれていないが、MBAの教科書で断片的に、一部の経営理論が紹介されることもある。例えば「取引費用理論」は垂直統合戦略を説明する時に重要な理論であり、MBAの教科書で紹介されることもある。これらはwhyに応えるものだ。ただし問題は、本文で述べたように多くの教科書は「現象ドリブン」なので、理論の説明は非常に浅くなりがちなことだ。したがって理論への納得感がないままになる。

 タイプ5
 そして実は、経営学者の間では「学術的に確立された理論」とされているにもかかわらず、フレームワークに落とし込まれず、MBAの教科書やビジネス本で紹介されることのないままの理論が、この世にとても多く存在するのだ。これらはwhyに応えるが、ビジネスパーソンの目に触れることがこれまでほぼなかった(本書では、その主要なものをほぼすべて紹介する)。

 このうち一般のビジネス本で紹介されるのは、タイプ1がほとんどだろう。しかし、これは経営学の対象範囲ではない。加えて厄介なのは、MBAで使われる経営学(例えば経営戦略論)の教科書では、タイプ2とタイプ4だけを中心に、しかも両方を混在して紹介していることだ。