「Aジャーナル」以外の学術誌の価値とは

 ここで3点、重要なポイントを付記しておく。

 第1に、もちろん経営学の学術誌は、Aジャーナルだけではないことだ。例えばJournal of Managementや欧州で特に評価の高いJournal of Management Studiesも最近は存在感を高めている。これら「Aマイナス」クラスの学術誌も含めて、世界の主要経営学・経済学のトップ学術誌50本を合わせたのが、欧州のフィナンシャル・タイムズが中心となって選定する「50 Journals」と呼ばれるものだ。このリストはネットで検索すれば、すぐに誰でも見ることができる。関心のある方は確認されるといいだろう(ただし、経営学の論文と経済学の論文、「A」と「Aマイナス」の論文が混ざっているので、注意されたい)。

 第2に、経営学でもトップクラスの学者の中には、上記9誌以外の「ディシプリン・ジャーナル」(discipline journal)に論文を投稿する者もいる。序章で述べたように、世界の経営理論は、経済学、心理学、社会学のいずれかのディシプリンを応用している。

 したがって、その理論ディシプリンを突き詰めようとする学者は、帰結として経営学よりも、各ディシプリンの専門誌に投稿することがあるのだ。例えば第1章では、マイケル・ポーターが1977年に経済学のトップ学術誌である『クォータリー・ジャーナル・オブ・エコノミクス』に発表した論文を紹介している(この場合、1977年当時は経営学の学術誌がそもそも存在しなかった、という背景もあるかもしれない)。第4部では、『アメリカン・ジャーナル・オブ・ソシオロジー』などの社会学ディシプリンの学術誌に掲載された論文を何本も紹介している。なお、この傾向については、第41章でも改めて解説している。

ハーバード・ビジネス・レビューは実務家向け

 そして第3に、これらのトップ学術誌に『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)が入らないことだ。HBRや『スローン・マネジメント・レビュー』(SMR)などの雑誌は、あくまで実務家向けのものであり、学術的な研究成果を追求して発表するところではない。もちろんHBRやSMRには経営学者が論文を掲載することもあるが、その場合も、他の学術誌のために研究したものを実務家向けにアレンジしていることも多い。したがってHBRに論文を載せても、学術的な研究成果とはみなされないのである。

 もちろん、筆者はHBRを読んでも意味がないと言いたいのではない。むしろその逆で、学術的な知見を実務家向けに柔らかく書き直してくれているわけだから、HBRは(本書と並んで)、経営学の知見を我々の身近なものにしてくれるという意味で、特にビジネスパーソンの方々には、やはりぜひ手に取っていただきたい雑誌であることは間違いない。