その一方で、16年には東京都知事選に自民党の推薦を受けるかたちで出馬し落選。直後に民営化委員長を退任した経緯があり、今回、政府・官邸が埋め合わせをするかのように、増田氏に白羽の矢を立てたわけだ。
「火中の栗を拾えるのは、増田さんくらいしかいない」。そうした声は今年の秋口から、永田町、霞が関界隈で広がっていた。
年の瀬が迫る中、増田氏が早い段階で日本郵政の新社長就任を受諾し、年明けの就任が決まったまでは良かったが、問題だったのはかんぽ生命と日本郵便についても、同時にトップ交代が必要だったことだ。
この時期に火中の栗を拾うような奇特な人材が、複数見つかるはずもなかった。
新社長に就く衣川、千田両氏について、長門氏は27日の記者会見で「今選び得るベストの人間を選択できた」と述べた。
だが、衣川氏は旧郵政事業庁のころから、かんぽの資金運用に長く携わっており「本籍はかんぽ」(日本郵政幹部)とされる。グループの中でいえば、郵便事業や郵便局の現場との接点が相対的に小さいにもかかわらず、日本郵便の社長とするのがベストというのは、にわかには信じ難い。
また衣川、千田両氏には一連の不適切販売を巡る責任が、経営陣として当然ながらあり、本来であれば長門氏らと同様に引責辞任しても何らおかしくはない。
一方で、日本郵政グループ4社で約100人いる執行役と執行役員のうち、7割は旧郵政省出身者で占めている。
前身組織のなごりがいまだ強く残る中で、現在の役職と入省年次のバランスを踏まえつつ、より多くの人材をグリップできそうなのは誰なのか。そうして必然的に浮かび上がってきたのが、衣川、千田両氏だったわけだ。
これまで、民営化路線自体が幾度となく迷走し、手足を縛られながら経営しなければいけないという「構造的欠陥」を抱えたまま、郵政グループの抜本改革は、ひとまず増田氏ら元官僚3人の手に委ねられることになった。
(ダイヤモンド編集部 中村正毅)