フィンランド首相2019年12月、フィンランドの首相に就任したサンナ・マリン氏。34歳での就任は、現職として世界最年少だ Photo:Thierry Monasse/gettyimages

 2020年代は、デジタルトランスフォーメーションの波に対応できなかった2000年からの「失われた20年」を転換させて、反撃の10年にしたい。鍵となるのは人材だ。

 これまで企業に貢献してきた優秀な社員たちは、既存事業のルールや商習慣をしっかり身に付けた人たちだが、皮肉なことに、イノベーションに関してはそれが足かせとなってしまった。

 イノベーションを主導する一番有望な人材は、40代以下の若い世代だ。彼らは、既存のルールや商習慣に染まっていないばかりでなく、物心がついた頃から既にインターネットに親しんできた「デジタル世代」である。そうした世代が、デジタルトランスフォーメーションを切り開いていくのが一番自然だ。

 しかし、経営トップからすれば、まだ経験の浅いデジタル世代に企業変革の重要なタスクを任せて大丈夫なのかと心配になるだろう。任せるには長い下積みを経る必要があると信じているからである。

 その背景には、終身雇用と年功序列の雇用慣行がある。終身雇用と年功序列を採用している企業では、仕事の覚え方は徒弟関係での伝承が基本だ。これは、既存の仕事を継承することと、社内のルールに従い、間違いを犯さないことに重点が置かれている。

 しかし、これでは若い世代に権限が与えられる頃には、もう若くなくなっており、イノベーションを起こすのに必要な「失敗を恐れず新しいことに挑戦する」という気力や体力がうせていることが多いだろう。

 経営トップは、「若い社員は下積みをすべし」という既成概念を思い切って捨てるべきだ。

 成長には多くの経験が必要だということに異論はないが、経験と下積みは違う。下積みは、徒弟関係の中で熟練の技を覚える修業であり、職人の世界だ。そこでは方法論には疑問を持たず、技を覚えることが基本だから、時に既存の方法論を否定することにつながるイノベーションの態度とは対極を成す。

 一方で経験とは、自ら主体的に仕事を計画・実行し、その失敗や成功から学ぶプロセスだ。入社直後から濃密な経験を積めば、数年で企業内でイノベーションを担う人材の予備軍になるだろう。

 そもそも、世界を見渡せば30代で首長や大臣、大企業の経営トップになるのは普通のことだ。実際、フィンランドの新首相は34歳だ。下積みをしていたら、この年で大きな組織の長になることはできない。極論かもしれないが、企業の変革を担う社員には、修業による下積みは必要ないどころか、足かせになるだけではないか。