乳房切除は予防ではなく
予後を改善する治療

――先生は日ごろから、乳がん患者さんに接しています。少しでもリスクを減らしたいと思っている患者さんの考え方は変化していますか?

 当院ではブレストセンターを05年に開設し、遺伝子ルームが2006年にできて以来、遺伝カウンセリングと遺伝子検査をずっと行ってきているのですが、例年カウンセリングを受ける方の、約半数が遺伝子検査を受けています。

 なかにはお母さんを乳がんで亡くし、自分も心配になって遺伝子検査を受けたところハイリスクであることが分かった、絶対にがんにはなりたくないという思いを持っている人もいます。そういう方々は、がんに対する恐怖とか自分でコントロールできない不安とか、さまざまな苦痛を抱えて生きています。私たちの目に前にいるのは、そうした患者さんたちです。

 巷では、検診を受ければがんにならないと誤解されている方もいますが、検診はあくまでも早期発見で、がんになっても生命予後への影響を最低限にするためのもの。がんにならないようにする手段があれば、選択する人がいてもあたりまえじゃないですか。

 ただそれが、がんになっていない臓器を手術で切除するといった方法ではなく、たとえば何かの薬を飲むとか、お肉をいっぱい食べましょうとか、こんな運動をしましょうとかいうものであればいいのですが、今の段階では、乳がんに対しては、がんになっていない乳房を切除する以外の方法がありません。

 ですから、当院では、それを選択する人のための体制を、2011年の7月に整えました。以来、リスクの高い人の28.3%が乳房を切除し、37.2%が卵巣卵管を切除しました。その両方をやっている人もいます。これらは当然自費です。

――自費だと、手術代の負担は相当高額になりますね。

 はい。私の患者さんでは、中学生のときにお母さんを乳がんで亡くされて、自分もいつかなるかもしれないと思っていたら、やはり発症してしまったシングルマザーがいます。1人でお嬢さんを育てており、自分がいなくなったら、娘が一人ぼっちになってしまうので、再発はなんとしても防ぎたい。それで遺伝子検査を受けて、遺伝性の乳がんであることを確かめ、がんになっていないもう一方の乳房切除を、その方は決めました。

 乳房切除は、普通であれば再建も一緒にするのがあたりまえですが、リスクを減らすための切除では、再建も自費になるため、かなりのお金がかかります。なので、再建を諦めている人も少なからずいます。

 当院のデータでは、70%ぐらいの人しか再建していません。