今回の経済対策や「15カ月予算」編成に影を落とした「黒船」が、財政赤字を積極肯定して欧米の「反緊縮」運動の理論的支柱になっている「現代貨幣理論(MMT)」だ。特集「財政膨張」(全5回)第4章では、そのMMTの命名者でもあるビル・ミッチェル・ニューカッスル大学教授のインタビューをお届けする。同氏は、「主流派のマクロ経済政策が機能せず、信頼しない人が増えたことが、新しい財政政策中心の時代の幕開けになった」と話す。(ダイヤモンド編集部 西井泰之、竹田幸平)
90年代半ばの日本の状況が
研究の初期段階に重要な役割
MMTが確立される過程で、1990年代半ば以降の日本の状況が、研究の初期段階に重要な役割を果たした。
私が大学で教え始めたときに日本でバブルが崩壊し、日本経済に関心を持つようになった。その後、日本で財政赤字は増え続けたが、インフレ率は低いままだった。
政府債務の拡大と低金利をどう両立できたのか、その興味からランダル・レイ・バード大学教授や銀行家のウォーレン・モズラー氏らと議論を始めたのが、MMTにつながった。
われわれの考え方が一般の人に知られるようになったのは、2004年に私がブログを始めてからだ。そこで議論された一連の考え方が、10年前後からMMTと呼ばれるようになった。
その頃、モズラー氏が大学生への奨学金制度を設けて始めたプログラムで学んだのが、いま、米民主党のサンダース議員やオカシオ・コルテス議員の政策顧問をしているステファニー・ケルトン・ニューヨーク州立大学教授らだった。こうしてMMTの議論が広がり、いまのMMTによる“革命”につながっている。
日本では世界金融危機後も、国債増発で財政赤字が膨らみ、国債を購入した日本銀行のバランスシートは劇的な速さで拡大した。主流派の学者は金利急騰やインフレが加速すると言ったが、現実は正反対だ。