MMT(現代貨幣理論)は5年ぶりに登場した経済学の目新しいコンセプトで、提唱者らの著作が日本で出版されれば大ベストセラーは間違いないところだ。主導する一人、アメリカのステファニー・ケルトン氏(ニューヨーク州立大学教授)が先週来日し、ダイヤモンドオンラインを含むさまざまなメディアに登場してMMTの理論的な解説を行なっていた。ここではMMTが登場した背景をたどり、経済思想史と経済理論の基礎知識を整理する。(ダイヤモンド社論説委員 坪井賢一)
5年前に登場した
ピケティ以来の大ブームに
5年前の新コンセプトとは、トマ・ピケティが『21世紀の資本』で300年間の統計を駆使して証明した次式であり、資本主義の本質的な矛盾を表している(1)。
r > g …… 資本収益率 > 経済成長率
資本収益率(r)は、生産や所得の成長率、つまり経済成長率(g)を長期的に上回り、資本を持つ人々と持たない人々の格差が拡大し続けて、資本主義の矛盾が激化するという。
『21世紀の資本』は欧米や日本でベストセラーになり、一大ブームとなった。経済学ではこのように短期間で人気を集める経済理論が出現することがあるが、経済思想史からみると突然変異ではなく、階段を上がるように登場したことがわかる。
ピケティの背景には、まずマルクス(1818~83年)がいる。マルクスは「利潤率低下法則」を「発見」して資本主義は必然的に崩壊すると考えた(2)。次にレーニンは「世界はひとにぎりの高利貸国家とおどろくほど多数の債務者国家とに分裂した」「金利生活者の収入が、世界最大の『貿易』国の外国貿易からの収入を五倍も上回っているのだ」と書いている(3)。つまり、r > g のような論理を書いている。
そして21世紀に登場したピケティがすごいのは、300年間の世界各国の税務統計を精査して実証したところにあった。
(1)トマ・ピケティ『21世紀の資本』山形浩生ほか訳、みすず書房、2014年
(2)小室直樹『経済学をめぐる巨匠たち』ダイヤモンド社、2003年
(3)レーニン『帝国主義』宇高基輔訳、岩波文庫、1956年