肩の怪我が持つ「特殊さ」

「肘」の痛みもピッチャーにとっては深刻な問題だが、「肩」とはちょっと事情が異なる。
現代スポーツ医学において、肘関節のメカニズムはかなりの部分まで解明されているので、痛みの原因を正確に診断してもらえる可能性が高いのだ。

僕自身もメジャー時代には、トミー・ジョン手術という「肘」の内側側副靭帯の再建術を受けた経験がある。この手術をした場合、実戦復帰までは1年半以上かかるケースもあるが、復帰までのステップはかなり明確だ。
まずは肘関節の可動域を広げるリハビリをしながら、並行してウエイトトレーニングで筋力を戻す。数ヵ月後に肘の腱が生着したらキャッチボールを開始。そしてブルペン投球から実戦へ……。
こういう具合にゴールが定まっているので、一歩一歩前へ進めていけた。決して楽な道のりではなかったが、今回の肩の痛みと比べると、気持ちとしてはもう少し楽だったと思う。

他方で、より複雑なメカニズムを持つ「肩」を傷めてしまうと、そういうわけにはいかない
「こういう治療を施せば、だいたい治る」という道筋がいまだにはっきりしていないし、そもそもどこが悪いのかもなかなか判断がつかないのである。

僕の肩関節の痛みについても、現在の状態が完治までのどの段階にあるのか、また、そもそも治る可能性があるのかを把握できないでいた。
画像診断を受けても、手術が必要なほど悪い箇所は見当たらない。
だから幾分、痛みが和らいだところでキャッチボールを再開するものの、徐々に距離を伸ばしていくと再び症状が悪化してしまう――その繰り返しだった。

痛みがひどいときは、日常生活に支障をきたすことさえあった。
睡眠時には、左肩を下にできないので基本的に寝返りが打てない。
肩がねじれるような痛みに見舞われて、何度も夜中に目を覚ました時期もある。
とくに寝起きには、ほとんど左腕を動かせないような状態だったので、右手だけで掛布団をはぐ動作からスタートする毎日が続いていた。