だが、それでも劇的なコスト低減が果たせない状況でクルマのオール電化をやるとなると、クルマを使わない社会システムへの転換はマスト。公共交通機関を増やす余地がほとんどないロンドンへの人口・産業集中をあらためて地方分散を図らなければ、社会はマヒ状態に陥るであろう。

 現実に地方分散をやるのは、日本が東京への集中を解消できないのと同じでほとんど不可能と思われるが、妙案はあるのか。

ジョンソン首相の宣言は
欧州ポピュリズムの一種か

 2035年のクルマのオール電化が難しく、かつ尋常でない国民負担を強いることになることはイギリス国民も先刻承知。「方法論なきアジェンダはSF小説と同じ」(イギリス経済紙のベテラン記者)などと、ジョンソン首相を揶揄(やゆ)する声も、表明直後から相当出ている。

 にもかかわらず、ジョンソン首相がEUに先んじるような策を打ち出した背景にあるのは、欧州ポピュリズムの一種ではないかと前出の経済紙記者は言う。

「欧州では2010年代に入ってから環境NGOが世論形成力を背景に力を伸ばしてきた。最近では環境活動家のグレタ・トゥンベリ氏の演説を見てもわかるように、若者を積極的に取り込み、大人をそれに同調させることで、より強固な脱石油ムーブメントを形成している。政治家としては、環境NGOが喜ぶようなラディカルな環境政策を打ち出すことが国民の人気を取る最も有効な手段。

 おそらくジョンソン首相も『できる』という確証があってエンジン車BAN(廃止)を打ち出したのではないと思う。欧州をリードするような政策や中国との経済連携の強化などで支持率を高め、連合王国の結束を強められる保守党党首であることを示すという意図があるのだろう」

 話を聞いた人物はEU残留派だったので話を多少割り引いて考える必要があるが、それでもジョンソン首相の宣言が確固たるロードマップを欠いたまま行われた、扇情的なものという側面はあろう。