利尿薬でASDを改善?3~6歳児で効果を確認写真はイメージです Photo:PIXTA

 対人関係やコミュニケーションに問題を抱える自閉症スペクトラム障害(ASD)。100人に1人が該当するといわれている。

 小さいうちに療育や支援につなげることができれば、本人と周囲の「生きづらさ」を改善し、不適応から生じる「二次障害」を未然に防ぐことができる。

 ただ、ASDの子どもに対してはこれといった治療薬がない。療育は家庭の経済力や地域の支援体制に左右されるため、誰でも使える治療薬の開発が望まれてきた。

 今年1月、中国・上海の複数の研究機関と英ケンブリッジ大学の共同研究グループが、ASD児に対する臨床試験の結果を専門誌に報告した。日本でもむくみ治療に使われている安価な「ループ利尿薬(一般名ブメタニド)」で、ASDの子どもたちの症状を軽減できるかもしれないというのだ。

 試験は上海病院に通院している3~6歳のASD児83人を対象に、利尿薬を飲む42人(治療群)、薬を飲まない41人(非治療群)に割り付け、3カ月間経過を観察した。非治療群の2人が、療育の機会を得たため、途中で参加を取りやめている。

 効果の判定は、小児自閉症評定尺度(CARS)の改善度のほか、脳の化学物質の変化を測定する「MRS(磁気共鳴分光法)」で、脳内の興奮─抑制系に関係するGABAとグルタミン酸の変化が測定された。

 その結果、利尿薬を飲んでいた子どもたちのCARSで有意な改善が認められた。具体的には、反復行動と特定の物事に対する「こだわり」が低下している。

 また脳内の感情や共感、自己認識をつかさどる部位と、視覚情報を処理する部位でのGABAが低下していた。研究者は「ブメタニドが脳内化学物質のバランスを改善し、ASD症状の改善につながることを初めて実証した」としている。副作用は多尿や頻尿、低カリウム血症などだった。

 人間の脳は誕生後、20代の初めまで発達し続ける。発達初期に症状を改善する意味は大きい。一日でも早く、大規模な臨床試験で有効性を証明してほしい。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)