政権運営では科学的な裏付けよりも
国民ウケや支持率が優先される

 これまで日本における新型コロナウイルスの感染者数・死者数は、他国と比べて抑えられてきた(本連載第236回・P5)。

 政府の専門家会議が中心となり、全国各地でPCR検査数を抑制して医療崩壊を避ける一方で、クラスター(大規模な集団感染の発生につながりかねない患者集団)を徹底的に発見、追跡、収束を行う日本独特の戦略が展開されてきた結果である。しかし、それは結果オーライ的なものではないか。その対応は世界から評価されているというよりも、むしろ感染者数・死者数の少なさを不思議がられて、今後どうなるかを不安視されているようだ。

 そして、「布マスク2枚配布」「所得減少世帯限定・自己申告制の現金給付」「緊急事態宣言の遅れ」は、安倍政権に対する国内外の不安をさらに高める結果となってしまったようだ。なぜ、こうなってしまったのか。

 まず、「布マスク2枚配布」について考えてみる。朝日新聞の『布マスクで「不安パッと消えます」 官僚案に乗って炎上』という記事によれば、これは経済官庁出身の官邸官僚が発案し、「全国民に布マスクを配れば、不安はパッと消えますから」と安倍首相に伝えたのだという。

「布マスク」は、世界保健機関(WHO)が「感染防止に効果なし」としたものである。つまり、科学的、専門的な裏付けよりも、世論の動きや支持率の維持が強く意識され、優先された政策決定だったといえる。そして、これは第2次安倍政権における意思決定全般にみられる特徴である。

「消えた年金」問題や閣僚の不祥事・失言など、さまざまな問題の噴出で支持率が急落し、わずか1年で退陣することになった第1次政権(2006年9月~07年9月)の反省から安倍首相が痛感したことは、高支持率を維持することが何よりも大事ということだった。12年12月、政権を奪還した安倍首相は、公共事業や金融緩和を「異次元」規模で派手に打ち出す「アベノミクス」を掲げた。その狙いは当たり、アベノミクスは国民から高い支持を得た。(第101回)。

 その後も安倍政権の、世論受けがいい政策を羅列して高支持率維持を狙う姿勢は徹底していた(第52回)。アベノミクス「第三の矢」である「成長戦略」は、日本企業や国民に痛みを強いることになる「岩盤規制」の改革が骨抜きとなり、誰も反対することがない「日本企業の競争力強化策」の羅列となった(第57回)。

 そして、安倍政権の世論・支持率重視の姿勢を象徴する政治家が、現在、新型コロナウイルス対策で陣頭に立っている加藤勝信厚生労働相だ。かつて加藤氏は、「働き方改革担当相」「一億総活躍担当相」「女性活躍担当相」「再チャレンジ担当相」「拉致問題担当相」「国土強靱化担当相」「内閣府特命担当相(少子化対策男女共同参画)」と、実に7つの閣僚職を兼務していた。

 これらは、まるで一貫性がなさそうだが、全て「国民の支持を受けやすい課題」だという共通点があった。つまり、加藤氏は事実上「支持率調整担当相」であり、首相官邸に陣取って、支持率が下がりそうになったらタイミングよく国民に受ける政治課題を出していくのが真の役割だった(第163回・P3)。