TAMが大きくても、説明できなければ意味がない

小林:TAMも随分と意識されるようになりましたが、自分たちがアプローチできるマーケットが最大何兆円、何千億円、何万社なのかといった大きな数字が羅列されているばかりでは意味がありません。

何らかの切り口・視点から、その最大市場を細かく分解していくことで事業戦略や事業計画の解像度が上がっていくわけであって、最大社数×社単で最大売上規模いくら、というような計算では全く説得力のない事業計画書になってしまいます。

朝倉:算出ロジックの説明がないまま、その会社が設定しているTAMの数値だけを伝えられても正直よく分からないですよね。

小林:はい。TAMは、数値が大きければ大きい程いいと思われがちですが、大きくても解像度が粗くてイメージが掴みづらい計画は、実行性が乏しいと思われてしまいます。

村上:5つ目の、短期的・長期的視点にも関連してきますが、直近1年の計画は表現できていても、どうしたらより大きなTAMにアプローチしていけるのか、長い時間軸での成長イメージが描けていないと、投資家の説得は困難になるでしょう。

事業計画には、短期予算計画の延長という側面と、長期的・戦略的なTAM実現への道筋という側面があり、どちらが欠けても片手落ちの状態になります。ですから、実績・短期的成長見通し・長期的なTAM実現の見通しをうまくつなぎ合わせることが必要になるのだと思います。

小林:まとめると、KPI設定は妥当か、積み上げ式・逆算式の算出ロジックをどちらも意識できているか、リアリティのあるユーザーイメージは持てているか、TAMの算出ロジックは妥当か、短期的・長期的な視点どちらも意識できているか。この辺りが事業計画の精度を上げるためのチェックポイントとして有効だと言えるのではないでしょうか。

朝倉:自分たちで話しながらも、今回は耳が痛いと思うところもありますね。というのも、自分たちがマザーズ上場企業の経営をしていたときに、今回挙げられたポイントを完璧に実行できていたのかというと、正直なところそうとは言えません。行うは難しで、未上場のスタートアップだけでなく上場企業であっても、この観点でパーフェクトな企業はなかなかないのではないか、というのが私の実感です。

村上:そうですね。なかなか超えられないハードルだと思います

*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:代麻理子 編集:正田彩佳)、signifiant style 2019/1/10に掲載した内容です。