新入社員に伝えたい、リクルートで学んだ「使われる勇気」今考えるべき会社員としての「市場価値」とは? Photo:PIXTA

 4月も半ばとなった。何年たってもこの季節になると新入社員時代を思い出す。リクルートに入社したはいいが、最初に配属された部署は社長室だった。そして最初に携わったのは、社長のスピーチ原稿(主に社内向け)の原案を作るという仕事であった。

 当時のリクルートは、経験の有無に関係なく、大きなチャレンジをさせる社風だったが、それにしても、社長のスピーチの原案など、社会に出たばかりの新人に書けるわけがない。社内の各事業部門では3カ月ごとに大きな集会があり、そこで社長が話すスピーチの原稿の下案を用意せよというのだ。集会が間近に迫ってくる中で、何も書けない、何も書いていないという状態が続き、私は絶望的な気持ちになっていた。本当に目の前が真っ暗で、外に出ると太陽がまぶしくてくらくらするくらいだった。

カリスマ経営者は
「私を使え」と繰り返し言った

 わらをもつかむ思いでふと、隣の秘書課の先輩の机の上を見ると、そこにたくさんカセットテープがあった。聞けば当時の社長、江副さんのスピーチ録音だと言う。神様からのプレゼントだった。私はその日から、30本以上はあっただろうか、そのテープを何度も何度も聞き、江副社長がどんな思考回路で、どんなふうに物事を考えるのか、どんなことをメッセージとして伝えたいのかをひたすら学んだ。

 私個人の能力の問題もあり、また新人のレベルはしょせん高が知れているため、江副さんの思考回路の10分の1もマスターできたとは思わないが、それでも、いまだに江副さんならこう考えるのではないだろうかと、思考をトレースすることができるような気がする。おかげで無事に原稿もどうにかそれっぽく書けるようになった。

 さて、江副さんのスピーチには、今ならともかく、少なくとも当時、社長のような要職にある人がおそらくほとんど言わなかったであろうと思われる一文があった。20分から30分の社内向けのスピーチに必ず、「私を使ってほしい」というくだりが含まれていたのだ。

「社長が社員を使う」ならわかるが、「社員が社長を使え」と言うのである。最初は何のことかよくわからなかった。