緊急事態宣言の発令の対象が全国に拡大した4月16日以降、複数のゼネコンが工事中止の方針を掲げた。しかし、ゼネコン単独で工事中止を判断するわけにはいかず、発注者との協議が大前提だ。ゼネコンが勝手に工事を中止したら、発注者に賠償金を支払わなくてはいけなかったり、工事中止のあおりを受ける職人たちから補償を求められたりするなど、ゼネコンが責任を負わされかねないからだ。

 多くの職人たちは日給月給制の給与体系であるため、仕事がなくなれば生活が困窮しかねず、体調が悪く感染の疑いがあっても申告しなかったり、他の理由をつけて隠そうとしたりすることがある。現場を止めてゼネコンに迷惑を掛けることのないようにという忖度も働く。

 前出の派遣社員は、コロナ感染者が国内で増えていく状況と感染対策の偽装が横行する現場の実態を憂い、所長に休職できるかどうかを相談したところ、「うちを辞めたって、どこかで働く以上は感染する。うちのせいみたいに言わないでよ」と返ってきた。まるで悪者扱いだった。

 派遣会社に相談しても「自己判断でどうぞ」と言ってくるだけ。工期の途中で仕事を投げ出せば、経歴に傷が付く。職場には愛着があり、工事の完成を見届けたいという気持ちもある。そもそも、家にこもり続ければ、3カ月もすれば生活が立ちいかなくなる。

「時給1500円のために命を懸けて、急ぎではない工事のために死ぬのかな」。1人暮らしなので、家族を巻き込まずに済むのがせめてもの救いだ。「家族がいる所長も、本当は休みたいんだろうな。彼も苦しいんだろうな」。

 結局、恐怖しながら出勤を続ける日々。自宅の机の上には、遺書が置かれている。

「コロナは容体が急変するのが早いと聞いたから。もしも自分が死んだときに、こんな思いで仕事に行っていたのか、と分かってもらえるように。でもやっぱり死にたくない――」

 現場の感染予防対策が不十分な中で、ゼネコン本社や施主、国、自治体から工事中止の判断や指示が出されないまま、恐怖におびえながら働く人々が置き去りにされている。

Key Visual by Kaoru Kurata