東レは米ボーイングやユニクロの開発パートナーを務める他、リチウムイオン電池の主要部材の主力メーカーの地位を築くなど、世界のありとあらゆる産業に根差した一大素材メーカーである。その素材の“雄”は、新型コロナウイルスが襲った「世界封鎖パニック」をどのように乗り切ろうとしているのか。特集『日本企業、緊急事態宣言』の#17では、日覺昭廣・東レ社長に今打つべき一手を聞いた。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
炭素繊維は需要減
それでも中長期的には引きは強い
――新型コロナウイルスの感染拡大は、全世界の全産業に甚大なネガティブインパクトを与えています。東レは米ボーイングと包括的長期供給契約を結ぶことで、炭素繊維複合材料を納めたり設計や材料などの共同開発をしたりしていますし、中国に強いユニクロとも戦略的パートナーシップを締結する仲にあります。自動車関連企業にも軽量化素材やリチウムイオン電池部材を供給するなど、全世界の基幹産業と取引のある幅広い事業展開をしていますが、どのような影響が出ていますか。
まず繊維については、コロナによる外出自粛の影響なのか、冬が暖かく春が寒いという気候の影響なのか分からないんだけど、アパレル関係が厳しい。それから自動車が全然売れなくなっているので、樹脂などの需要はかなり下振れています。炭素繊維も、移動制限によって航空機の発注が大幅に減ると思うので、短期的な需要減は大きいとみています。
航空機でいえば、ボーイングにしても、その下請け企業にしても、3月末ごろから政府の方針で操業が止まっているところもあったので、どこも部材の在庫を持たないようにしているんですよね。
――意外です。コロナで調達が滞るかもしれないから、在庫は積み上げる方向で動いているのかと。
トイレットペーパーとか、(デマとはいえ供給不安が出た)特殊な製品についてはそうなんでしょうけど、製造業は「2~3カ月は需要が厳しいから在庫は持たない」といった具合で、ある程度先を読んで動いていますよね。
――世界中のどの企業もコロナショックは長期化するとみているわけですね。
そうです。だから逆に言えば、コロナの感染拡大に終息の兆しが表れたら急回復する可能性もあります。
――なるほど。どこも余剰在庫を持っていないから、市場が回復するとなったら一気に発注を増やすかもしれないですね。しかし、コロナの感染拡大が終息したとして、はたして航空機市場は復活するんでしょうか。
2000年代初頭のITバブル崩壊にしても、08年のリーマンショックにしても、危機の発生直後に航空機の需要はいったん落ちた。でもその後、数年したら回復しています。確かに今は航空機を買おうというエアライン会社などないかもしれないけれど、耐用年数の問題もあるし、3年くらいたったらまた需要はどんどん増えていくでしょう。
それから、今は環境問題への対応が不可欠となっているので、燃費改善に寄与する軽量な炭素繊維複合材料の需要は増えてくると思うんですよね。中長期的に見たら、そういう流れは、僕は従来と変わりないと思っている。