競争フェーズからチューニング

 56クラブの中には純資産が少なく、経営基盤が脆弱なクラブも少なくない。予断を許さない状況がこれからも続き、再開後は無観客試合での開催も視野に入ってきた中で、村井チェアマンは各クラブの代表取締役や理事長で構成される実行委員会の席上で、一時的な方針転換を約束している。

「今シーズンはJリーグにとって有事という認識の中で、競争フェーズからいったんチューニングを行うと宣言しました。経営危機に陥るクラブが出てくる可能性もありますし、リーグ全体が平時とは違うオペレーションに移行せざるをえない状況で、すべてのクラブが安定的にサービスを提供できるよう、経営基盤をしっかりと守るためにモードを変えることを各クラブへ申し上げました」

 産声をあげた1993年からJリーグは共存共栄を掲げ、各クラブがいわゆる護送船団方式のもとで発展を遂げてきた。黎明期のバブルがはじけた1990年代の終わりから、2000年代のはじめにかけては「身の丈に合った経営」が叫ばれ、長く合言葉として共有されてきた歴史もある。

 潮目が大きく変わったのは村井チェアマンも尽力した、スポーツチャンネルの『DAZN』を運営するイギリスのDAZN Groupと10年間、総額約2100億円の大型放映権契約を結んだ2017年だった。モードが競争へと切り替えられ、経営努力や競技成績が反映されるオペレーションへと移行した。

 2018年には、2030年度までの基本成長計画となる『ビジョン2030』を策定。ピッチ上で見せるフットボールのさらなる充実だけでなく、社会連携や経営基盤など5つの領域で成長戦略を定め、どの程度達成できているのかを2022年度の時点で確認する中間計画も描かれていた。

 この中間計画を含めて、競争モードに導かれたすべてのプランを、必要な場合には来る2021年も含めて、一時的に凍結させることを迷うことなく決めた。黎明期に倣う護送船団方式の下で、これまで描かれてきたすべてのクラブの軌跡をコロナ後へ紡いでいく決意を、村井チェアマンは短い言葉に凝縮させている。

「新型コロナウイルス対策に、すべてのリソースを集中して備えていきたい」

 創設20周年の2013年に制定された『Jリーグの日』の前後で、公式戦が開催されない状況は初めてとなる。来年のアニバーサリーを笑顔で迎えられるために、リーグとクラブは二人三脚の絆をより強めながら、不退転の覚悟と揺るぎない決意の下で未曽有の危機を乗り越えていく。