新型コロナウイルスの感染拡大で世界各国の航空会社が運休を続ける中、タイのナショナルフラッグである「タイ国際航空」が経営破綻した。負債総額は昨年末時点の約2450億バーツ(約8300億円)から、最終的には日本円で1兆円近くにまで膨らむ可能性がある。注目すべきは破綻に至った本当の理由で、新型コロナが最後の一撃とはなったものの、「当然だ」「遅すぎた」などと内部に原因を求める声が少なくない。再建計画案さえまとめることのできなかった背景には、自業自得とも言うべき拭いがたいなれ合いの体質があった。(在バンコクジャーナリスト 小堀晋一)
内々諾を得ていた
再建計画案
2017年に約21億バーツの赤字転落以降、18年は約116億バーツ、19年には120億バーツと膨らんだタイ航空の債務。それでも放漫経営は改まることはなく、タイ証券取引所(SET)関係者の試算によると、コロナ禍に見舞われた今年は、前年比2倍以上の200億バーツ台の大幅赤字に転落することが確実とされていた。
それでもタイ政府は、財務省が過半を出資する国営企業の経営を支え続ける腹づもりでいた。少なくとも中央破産裁判所に破産法上の申請が行われた5月19日のつい1週間ほど前までは、そのかじ取りに、みじんの揺らぎもなかった。
財務省もタイ航空の求めに応じて金融機関からの総額1340億バーツの融資保証に応じる意向を示しており、プラユット首相は重ねて「最後のチャンス」と再建に望みを託していた。
会社が作った再建計画案も、関係方面の内々諾を得ていた。
保有機のうち老朽化した航空機22機については売却する算段を既に立てていた。その内訳は、「ジャンボ」の愛称でおなじみのボーイング747が10機、ワイドボディの777-200ERが6機、同300型が6機。いずれも大型で維持費がかかるのが理由だった。
また、リースで使用している新型機で航続距離の長いボーイング787型機8機についても、需要が望めない欧米路線などを中心に契約を打ち切る予定だった。予定していた新規調達の38機についても取りやめ、他に売却を見込んだものも含め、全保有機の半分に近いスリム化を実施するとしていた。
組織や機構の見直しにも着手する手はずだった。国営企業にありがちな、傘下にさまざまな新会社を設立して民業圧迫を行い、そこで利権をむさぼる仕組みを解消。運営の効率化と収益の向上を図るため、これら子会社の民営化を進めていくとした。
真っ先に挙がったのが、ブランド力と品質で一定の高い評価を得ているタイ航空のケータリング部門だった。同部門の19年の売り上げは85億バーツもあった。そこで、シンガポール空港などからも引き合いのあるこのサービス部門を独立させ、収益性を高めようとした。
さらに、約2万1000人いる従業員の給与と人員削減についても踏み込もうとした。
新型コロナの感染拡大もあって、幹部職員については、3月1日から向こう半年を当面の期間として報酬を15~25%削減することを申し合わせた。
また、一般社員についても給与の水準に応じ、4月以降の運休が続く間は10~40%の幅で引き下げるとした。
そして、最大の懸案とされてきた人員削減についても「聖域を設けない」ことを明言した。
再建計画案には政府出資の見直しも盛り込まれていた。
タイ航空の最大株主は財務省で、出資比率は51.03%。これに同省が設立した基金「Vayupakファンド」の7.6%、政府貯蓄銀行の2.1%などが続く。政府のコントロールが強く左右する体制にあった。
だが、財務省の保有分の一部を同ファンドに売却して50%以下とし、将来的に政府の監視下から徐々に離れていくといったプランが模索された。民営化を目指しながらも、拙速な対応を避ける現実的な民営化案と評価された。