「ネガティブ感情」は、
そのまま放置しておけばいい

 ともあれ、相性がよい上司などまずいないと考えておいたほうがいい。

 そして、上司との相性が悪いと、誰だってストレスになります。ましてや、“裸の王様”になって横柄な態度を取るような上司を相手にすると、精神的な苦痛を味わわされることになります。どうしても、上司に対する「ネガティブ感情」がわいてくるのです。

 私は、それは仕方のないことだと思います。自然とわいてくる感情なのですから、無理やり押し殺すこともできません。ただし、その感情に振り回されているようでは、とても「参謀」は務まりません。その感情はそのまま脇に置いておいて、仕事に向き合っていくほかありません。

 そもそも、会社というものはゲマインシャフト(家族や村落など感情的な結びつきを基盤にした集団)ではなく、ゲゼルシャフト(目的達成のために作為的につくりあげた集団)です。もともと感情的な結びつきをベースに集まった集団ではないのですから、そのような場所で「相性」の問題を持ち出すこと自体がふさわしくない、と考えるべきでしょう。それよりも、目的達成に集中すべきなのです。

上司を「人」ではなく「機関」と考える

 だから、私は、上司を「人」として見るのではなく、「機関」として見るようにしていました。

「人」だと思うから、相性が合わないと、さまざまな「ネガティブ感情」に苦しめられるのです。しかし、その上司は、事業目的を達成するために組織された会社のひとつの「機関」なのだと捉えればどうでしょう?

「好き」「嫌い」など関係なく、その「機関」を最大限に機能するようにサポートするのが自分の役割だと認識できます。そして、自分の遂行すべき仕事に集中できるようになるのです。会社は、目的達成のために作為的につくり上げたゲゼルシャフトです。そこでの行動指針は、どこまでも「合目的的」であることに尽きるのです。

 このように言うと、誤解する方がいます。

 上司を「人」として見ないというのは、いかにも非人間的な感覚ではないか、と。

 しかし、話は逆です。なぜなら、上司を「機関」とみなして、その「機関」を最大限に動かすためには、相手を理解しようと努め、相手の気持ちに寄り添いながら、こちらが言動を律していく必要があるからです。温かい心を養わなければ、上司という「機関」を動かすことなど不可能なのです。

 イギリスの有名な経済学者であるアルフレッド・マーシャルは、経済学者には「冷静な頭脳と温かい心(Cool Head but Warm Heart)」が欠かせないと述べたそうですが、まさにこれです。参謀としての役割を果たすためには、“Cool Head but Warm Heart”が欠かせないのです。