市民権質問の追加に物議
トランプが敗北した法廷闘争
今年6月27日、米連邦最高裁は政府の上告を棄却し、国勢調査に市民権の有無を問う質問(以下、市民権質問)の追加を認めない決定を下した。これで1年以上にわたる法廷闘争が決着したが、トランプ政権にとっては大きな敗北となった。
米国の人口数を正確に把握するために10年ごとに行われる国勢調査では、通常、性別・年齢・人種・所得などについて問われるが、市民権に関する質問はない。その質問を加えると、不法滞在者などが調査に参加しにくくなり、正確な数字を得られなくなる可能性があるからだ。
ところが、国勢調査局を管轄する商務省のウィルバー・ロス長官は、昨年3月、「2020年の国勢調査に市民権の有無を尋ねる質問を追加する計画である」と発表した。ロス長官はその理由として、「非白人の投票権の保護を強化するため」と説明したが、それに納得した人は少なく、方々から厳しい批判を受けた。
下院民主党はロス長官を議会公聴会に呼んで、「トランプ政権と共謀して、非白人の政治力を抑えようとしているのではないか」と追及した。つまり、民主党が問題としたのは、トランプ政権は国勢調査に市民権質問を追加することで非白人の回答者を減らし、それによって非白人の人口増加による政治力の拡大を抑えようとしているのではないかということだ。
連邦政府は国勢調査の結果に基づき、各州・郡・市への交付金の額や選挙区の区割り(議席数)などを決める。したがって、非白人の回答者が減ればその地域の交付金や議席数が減る可能性があり、住民の政治力も抑えられてしまうということである。
市民権質問の追加については人権団体も強く反対し、米国最大の人権団体「米国自由人権協会」(ACLU)などが連邦地裁にその決定の撤回を求めて、トランプ政権を提訴した。
原告側は、「この質問を加えることは非白人の移民に対する意図的な差別であり、“国勢調査は米国内に住む全ての人のデータを集計しなければならない”という憲法規定にも反する」と主張した。