韓国人著者のエッセイ『あやうく一生懸命生きるところだった』が今、売れに売れている。40歳を目前に会社を辞め、一生懸命生きることをやめた韓国人著者のエッセイで、韓国では25万部のベストセラー、日本でもすでに10万部突破と絶好調だ。
 本書の翻訳を担当した岡崎暢子さんも、「必死に生きない」という生き方を提案する本著に出合い、人生を変えた人の一人だ。必死で生きることに疲れてしまった人が居場所を見つけられるような、優しさに溢れた本書。人々の悩みに深く切り込んでいく魅力の本質とは──。岡崎さん本人に取材した。(取材・構成/川代紗生、撮影/疋田千里)

「やる気」とは誰かに強要されて作るものではない

──『あやうく一生懸命生きるところだった』は、仕事に悩む20代~30代の若者世代からも多くの反響があると伺いました。岡崎さんはこの本における「働き方」へのアプローチで、とくに面白いなと思うところはありましたか?

岡崎「そもそも、やる気がなくても働ける」という言葉ですね。もう名言ですよね! やる気が出ないことを悩むのが普通だと思っていたのに、こんな考え方があったのかという発見……。本のなかでは、こう書いてあります。

「やる気の根底には愛情がある。やりたくないなら当然やる気も起きない。やる気コンテンツに触れて、瞬間的に意欲が湧いても長続きはしない。それに、ムリにやる気を作り出すときは、たいてい自分以外の誰かが望む仕事であるケースがほとんどだ。やる気とは自ら作り出すものであり、誰かに強要されて作り出すものでは絶対にない。」

 やりたいことが見つからないとか、仕事にやる気が持てないというのは、とても苦しいですよね。みんなが何かを見つけて走っているのに、自分は見つからない。どうしていいかわからない、みたいな苦しさ。

(C)HAWAN『あやうく一生懸命生きるところだった』より

──私も経験があります。今の環境は苦しいから抜け出したいんだけど、やりたいことがわからないから、どこに行っていいかわからない。踏み出したとしても、今よりもっと苦しくなるかもしれない。だったら踏み出さないほうがいいじゃん! となって、結局なにも挑戦しないという……。

岡崎:すごくわかります、そういうの。たとえば、やりたいことに一生懸命取り組むようなドラマなんか観ていると、「自分もキラキラしていなきゃいけないんじゃないか」と思ってしまうことがありますよね。

 でも日常って、別にそうじゃなくていいはず。キラキラした眩しい生き方が正解のように思えてしまうこともあるけど、「堅実で安定した生活を手に入れて、それが幸せだ」という人もいる。自分らしく生きていいんですよ。突っ走りたい人はどんどん行けばいいし、「がんばる」の方法だって、人それぞれでいいんですよ。

 この本で書かれているのは、そういうことだと思います。世間体や世の中の雰囲気に合わせてがんばるよりも、自分が良いと思える生き方のためにがんばる。せっかく生きているんだったら、楽しく生きたほうがいいじゃないですか。

岡崎暢子(おかざき・のぶこ)
韓日翻訳家・編集者
1973年生まれ。女子美術大学芸術学部デザイン科卒業。在学中より韓国語に興味を持ち、高麗大学などで学ぶ。帰国後、韓国人留学生向けフリーペーパーや韓国語学習誌、韓流ムック、翻訳書籍などの編集を手掛けながら翻訳に携わる。訳書に『あやうく一生懸命生きるところだった』(ダイヤモンド社)、『クソ女の美学』(ワニブックス)、『Paint it Rock マンガで読むロックの歴史』、翻訳協力に『大韓ロック探訪記(海を渡って、ギターを仕事にした男)』(ともにDU BOOKS)など。