「やりたい仕事」は見つけるものじゃない

──著者のハ・ワンさんも本書のなかで、「失敗を恐れずに、”孤独の失敗家“になろう」「失敗したときは後悔すればいいだけ」と書かれていました。みんなが評価する選択ではなく、自分が納得した選択をしよう、と。とはいえ、そもそも「やりたい仕事」や「自分らしさ」のようなもの自体が見つからない人も多いと思います。岡崎さんは、やりたいことはどうやったら見つかると思いますか?

岡崎:まず、やりたいことを無理に探さなくてもいいように思います。やりたいことと、自分ができることって違いますよね……。ただ、「やりたいことを見つけたい」と思っても、ちゃんとやろうと力みすぎて、ただモヤモヤし続けているのが一番ダメで、とにかく歩き出すことが大事なんじゃないかなと思います。

 好きなことがあるんだったら、やり方がわからなくても、わからないなりにやってみる。で、やってみて合わなければやめればいい。何もしないで「どうしようどうしよう」と言っているのが一番良くないから、まずはとりあえずやってみることが大切だと思います。

 私自身、興味があることは考えずにすぐやってしまうのですが、やめちゃうことも多いです。全然できなかったということも多々ありましたし。でも、そこから自分の行きたい方向が見つかることもありますからね。

 ハ・ワンさんの考え方もたぶん同じで、「本当にやりたい仕事は“探す”のではなく“訪れる”ものなのだ」と言っていますよね。いろいろと行動するなかでふと降りてくるのが、「やりたい仕事」なんだと思います。

意識低い系エッセイが教えてくれた「自分らしい働き方」

生きづらさを感じるマイノリティに寄り添う本

──最近は、起業や独立をしてバリバリ自分のやりたいことをやっていくような人たちが目立っていて、そういった働き方が「最高」みたいな風潮になってきていると感じます。ただ、そういったガンガン攻めていく波に乗り切れない人たちも、少なからずいると思うんですよね。

岡崎:うんうん、その風潮はすごくわかります。

──そういう勢いのあるブームに乗り切れない人は、乗り切れない自分に対して劣等感を覚えてしまう。「大企業で粛々と働いているサラリーマン的な生き方は、かっこわるい」みたいな視線を向けられると、辛いですよね。ただ、この本はそんな息苦しさを感じている人たちにこそ響く本なのかなと思ったのですが、その点はどうお考えですか?

岡崎:わかります、私もそのバリバリの波には乗れない組です(笑)。自分のペースを乱されそうなので、そういうイケイケな方々とは、できるだけ距離を取りたい。でもそう思う一方で、乗れない自分に若干がっかりしてしまう気持ちもある。「なんで私にはそのエネルギーがないんだろう?」って。

 そういうときにも、この本の言葉は良いですよね。自分の人生を、自分が思うように自分のペースで歩めばいいんだというメッセージがあるから。ツイッターなどでは本書のことを「意識低い系エッセイ」と表現している方もいて、なるほどなと思いました(笑)。

 もしかすると、この社会で生きていくうえで、同じような決められたレールの上を走らされているような感覚が、みんなあるのかもしれません。だからこそ、読んだ人たちから共感を得られているんだと思います。バリバリ行けない組の息苦しさ・生きづらさをこの本が言語化して、気がつかせてくれたんじゃないかなと。「ああ、自分はこれでいいんだ」って。だから、そういう人にこそ読んでもらいたいですね。本当に。

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 実は、岡崎さん自身も本書に感動し、「自分らしい生き方」を叶えることになった人物の一人だった。働いていた会社を辞め、フリーの翻訳家として独立。人生の転機にもなったこの決断を後押ししてくれたのは、この『あやうく一生懸命生きるところだった』の原書を読んだ経験だったという。

 最後に、「周りに比べて、自分はやりたいことが見つからない」と悩んでいる人に向けて、本書の言葉を抜粋して紹介する。

「世の中には僕とは違い、やりたい仕事を人生の早い段階で探し出せる人たちがいる。そんな人たちが本当にうらやましい。どうしたらそんなにハッキリとやりたい仕事がわかるのだろうか。
 一方で僕のように、あれこれと興味はあるが、これといって何がやりたいのかわからない人もいる。
 本当にやりたいことがわからない?
 でも大丈夫。無理やり探そうとしなくていい。
 いつの日か、向こうからやってくるから。」

 一つ一つの言葉に、寄り添うような優しさが宿る本、『あやうく一生懸命生きるところだった』。今回の記事で紹介した本書の魅力はほんの一部に過ぎない。ただ、もしも何かピンとくるものがあったのなら、それはあなたが今、手に取るべきタイミングだというサインなのかもしれない。

【大好評連載】
第1回 モヤモヤ働く私の霧を晴らしてくれた一冊の韓国エッセイ
第2回 なぜこの本は、劣等感にさいなまれる韓国人の心を救えたのか?
第3回 意識低い系エッセイが教えてくれた「自分らしい働き方」
第4回 なぜ、韓国人は同じ店を隣に出すのか?

意識低い系エッセイが教えてくれた「自分らしい働き方」